禾希

死に関する散文とあほちらかした韻文を主に描きます。ホラー、オカルトにスキしがち。本業は…

禾希

死に関する散文とあほちらかした韻文を主に描きます。ホラー、オカルトにスキしがち。本業は@mareking_com

マガジン

  • 書き殴っただけのやつ

    推敲無し30分文章の墓

  • つくりばなし

    死に関する考察の連作

最近の記事

  • 固定された記事

肉片と境界

学生時代に焼きトン屋でバイトをしていた。カウンターと、小さなテーブルが4つ、大人数用の広いテーブルが奥に一つ。家族で経営している小さな店だが、人気の店だ。 奥の広いテーブルにいた数人のお客様が出て、すぐに中年夫婦が来店した。 私はまだ片付いていないその広いテーブルに向かい、グラスや皿を片付けていく。テーブルの上には、飛び出した焼きトンがころころと転がっている。それらを素手でさっさと拾って、積み重ねた皿の上に載せていると、奥様から優しく声を掛けられた。 「大変ね。汚いのに

    • 愛についてわかった人から飛び込んで

      さっきまで動画を垂れ流し方々に連絡を入れては来た連絡に返し、どんどんどんどん打ちのめされていくような気持ちになって、気が付いたら不思議大百科の最新回が「アルバート・フィッシュ」でそれを見ていた。非常に申し上げにくいのですが、こう、あーーーーっ!!!て感じになったので、仕事用の手帳を放り出してシリアルキラーのwikiなりなんなりを調べてしまう。チャールズ・マンソンて誰だっけな、なんか映画観たな、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だ。ディカプリオはキレッキレだしブラ

      • ストリートビューのモザイク

        ※登場人物・建物・画像はすべて存在しません。 2023.8.23 この前、男女何人かで飲み会してたんですよ。 合コンていうか、仲良い顔見知りの集まりで。 みんな出身がバラバラだったので、「みんなの実家見てみよう!」て誰かが言い出したんです。Googleのストリートビューで、それぞれ実家とかその近辺を検索して見せ合おうって。 都内の実家住みの子の家がまさに洗練された都会の家って感じで超かっこよくて。 それとは別でまじの田舎生まれだけどまさに原風景!みたいなのも風情ある

        • lovely lazy girls

          「俺のセフレになりたい?」 恵比寿ガーデンプレイスのイルミネーションの前で、私の手を振りほどいたこの男は、抜け抜けとそんなことを言いやがった。 は? クリスマスに彼女いるのに私とデートしてこれまでの流れ的にも彼女と別れて私と付き合う感じだったじゃん。もうアイツと潮時かなとか言って私とお揃いのブランドの時計買ったじゃん。 何?先にエッチしたのが悪かった? お前のことが好きだからのこのこホテルについてったわ、ネカフェでフェラチオしてやったわ。 え?つーか、別れねえのかよ。 「くた

          有料
          200
        • 固定された記事

        肉片と境界

        マガジン

        • 書き殴っただけのやつ
          5本
        • つくりばなし
          7本

        記事

          泥濘のおわり

          喉の渇き。渇望。 ひび割れた田圃が好きだった。 そこに水がどんどん入って、ぐちゃぐちゃになるのを見るのが、踏むのが、(あ、きもちいい)、ってなるのが大好きだった。侵食。蝕むかの如く。風邪の前兆の悪寒がどうしようもなく好き。蝕まれるかの如く。全身の神経が剥き出しになって、ぜんぶぜんぶきもちいい。熱も、頭痛も、吐き気も、苦しいことがたまらなく好き。大好き。 そう言って彼女は経口補水液を「うまいうまい」飲むもんだから、病院に連れて行った。バカなのだ。点滴速すぎて神経が痛いって泣き

          泥濘のおわり

          テンちゃんのあたまのなか

          テンちゃんが戻ってきた。童顔なのに垢抜けていて、細身なのにおっぱいが大きくて、小柄なのにいつでも世界の真ん中にいる女の子。かわいくて、かわいくて、かわいくて、だいすきだ。 「カッとしちゃったあ〜!」 テンちゃんは最後に会ったあの日と何一つ変わらない笑顔で言った。久しぶりのお酒にも、すすめられたたばこにも、屈しない。ずっと、ずっと、ずっと、最強なのだ。 テンちゃんは、あの男の首元から卑猥に伸びていたパーカーの紐で、あの男の首を絞めた。いきなりバイトを辞めたことも、SNSで

          テンちゃんのあたまのなか

          カルーセルエルドラドの憂鬱

          いっぱい人が死んで、なんだか地球が前よりも軽やかに回っている気がした。朝がやけに早く終わって、ふざけてやる幅跳びの測定みたいに太陽が沈んで、同時にとっぷんと夜がやってきて、また空は白んだ。俺が幼い頃に一度行ってからすぐに潰れた遊園地の、古い木製メリーゴーランドを思い出す。このままセカイ終わるんじゃね?って感じで、ああ、でもそれなのに俺は生きていて、意味わかんねー、って、仕事に行く。 ふぁ。 マスクの下から顎がはみ出るくらいの大きな欠伸をして、数時間前に抱いた女の子を思い出

          カルーセルエルドラドの憂鬱

          深淵の生クリーム氏

          16:30から美容室の予約をしている。お昼ご飯を食べた後、パチ屋で甘デジのうる星やつらを打って、初当たり3回引いて、全部確変入ったけど5Rばっかで5千円が吸い込まれて、駅前のエクセルシオールに避難した。喫煙ブースはあるけど、ココアを飲みながら煙草を吸えないエクセルシオールは、夏休み中の学生で賑わっている。喫煙席のもくもくに覆われた、あの日の静かなエクセルシオールは何処。もう二度と入んねえわ、そう思いながらココアを飲む。 私はコーヒーが飲めない。砂糖を入れようがミルクを入れよ

          深淵の生クリーム氏

          めいてい、それから。

          生温い風が汗ばんだ手の中に入り込んで、ぬるりと抜けた。右脇だけ異常に汗を掻くのがコンプレックスで、夏は汗染みの出来ない涼しい透け感のあるシャツばかり着てしまう。今年の夏も。 冬と、春に、人がたくさん死んだ。死ななかった人もいっぱいいたから、今年の夏も去年の夏と変わらないような佇まいをしている。通気性に優れたマスク。それでもじんわりマスクの下で汗を掻いて、行き交う人の波。海水浴場で、人が死んだらしい。溺れて死んだ。自分とは関係のない死因に、誰もが安堵した。不謹慎な、平穏。

          めいてい、それから。

          「やばい」戦争

          「やばい」って汎用性高過ぎるんですよね。全ての形容詞要らなくなるんじゃないかってレベルでみんな「やばい」って言いますもんね、私も言います。すごいし危ないし、可愛いしかっこいいんだよ?やばすぎ。 何でも「やばい」って返しとけば大体相手が意味を勝手に脳内変換してくれるから楽だし。たとえば自分が「新しい服なんだけど、どう?」って笑顔で言って、相手が「えー、やばーい!」って返してきたら「えー、おしゃれー!」「えー、かっこいいい!(かわいい!)」だと思うじゃないですか。「えー、やばー

          「やばい」戦争

          男性の好きな仕草の話

          ※以下の文章中の「好き」は「比較的印象の良い」の意まで含む広義の「好き」です。 Twitterなどで度々目にする「男性の好きな仕草」。ネクタイを緩めるところだとか、運転しているところだとか。これは「好きな男性がやっていたら更に好きになっちゃう仕草」です。好きな男性が左8を分けて取ろうがサッと取ろうがかっこいいし、どうでもいい男性が左8を取るところなんて見てないです。 大体好きな人のやることなんて何でも好きですし。多少の粗相なんてなんのそのです。ご飯の食べ方が汚いとか店員さ

          男性の好きな仕草の話

          「キャッチとかじゃない」お兄さんに声を掛けられた話

          数年前、夜の新宿紀伊國屋前を歩いていた時のこと。見知らぬ眼鏡のお兄さんに行手を阻まれ、声を掛けられた。 「すみません。僕、キャッチとかじゃないんですけど」 外見は至って普通。顔も普通。なんならちょっとかっこいいのかもしれない。スカウトの類にしては地味な服装。何だろう。 「15分だけでいいので、僕が一人でしてるところを見てくれませんか?」 予想外だったのでちょっと笑った。既に遅刻している飲み会へ向かう途中で急いでいたのだが、笑ってしまった。 「すみません、ちょっと時間

          「キャッチとかじゃない」お兄さんに声を掛けられた話

          チョコとバニラの、

          風化させないために、と。みんなが真面目な顔をして言った。独り歩きした正義感で埋め尽くされたタイムラインを上に素早く流す。つまらない、つまらない、つまらない。 わたしは早く、忘れたいのに。 「ハルちゃんおっつおっつ~」 ウリウが煙草のにおいを撒き散らしながら私の対面に座った。根本の黒くなった痛々しいブリーチ毛、透明骨格標本のような腕。 「ビール頼んどいたよ」 「さすがすぎ」 渋谷の地下で、私たちは息を潜めて酒を飲む。あったこと、ありそうなこと。私たちの会話はとても不

          チョコとバニラの、

          Emerald

          月が恐ろしく綺麗な夜だった。漆黒の紙の裏側から、煙草の火を押し付けたような月。煙みたいに薄い雲が、空の表面をゆっくりと撫でている。 人の疎らな街。僕のいる場所はいつだって片隅で、僕の世界にはいつも僕がいない。僕の目は光にとても弱くて、薄い色のついた眼鏡を掛けている。この世界はエメラルドの都で、僕はレンズ越しに生きている。ドロシーのいない、進まない世界。 僕は、考える。兄のこと。似合わない髭。ボサボサの髪。踵の擦り切れた革靴。ドロシーのこと。おさげをばっさり切り取った赤い髪

          愛の群青

          全てのビルが、青く、透き通っていた。水族館のあの青だ。空から降り注ぐ光はビルの壁に当たって跳ね返り、より鋭く、刃のように私を目掛けてまっすぐに伸びた。 静寂は、死だ。たった一人、私だけが体温を持つ。死に気付かれないよう、ひっそりと暗い息を吐く。誰にもぶつかることのない肩を震わせる。履き慣れたニューバランス998を手に持ち、つま先をピンと伸ばして、冷たい交差点へ降り立った。 電車はまだ動いていない。どこか遠くを走る、トラックの音が僅かに耳に届く。歩行者信号が青になって、私は

          愛の群青

          あの子の、めいてい

           早朝の新宿、歌舞伎町。ゴミの回収と、眼下にある昼キャバの看板を眺めながら雑炊を食べる。目の前にいる素性の知らない四十代男性二人の仕事の話を聞いちゃいけないものとして聞き流す。まだ酔いが脳味噌の周りをもやもやと回っていて、ビールよりマシだと思って頼んだ馬鹿みたいに濃いウーロンハイが更に私を酩酊へ導く。僅かな記憶の欠片は液状化して、金持ちの家のふかふかの絨毯に零れた赤ワインのように、染みて、 或いは、そう、いつだったか、あの娘が先輩の家のクッションに、つけた、 経血―― 高校

          あの子の、めいてい