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稼げない俳優をどうやって続けてきたか

SAG-AFTRA(米映画俳優組合)に所属する16万人の俳優たちがストライキ中。このニュースや俳優たちの発信を見て、自分もずっと書きたかった「俳優業」について、久しぶりにnoteを記す。
ストの内容に関してはニュース記事など見てください!本当に簡単に言うと「物価上がってるんだからちゃんと報酬見直せ!」という訴えです。

そもそも日本にはSAG-AFTRAに匹敵するような俳優組合がないから比較するのもナンセンス?とは思いつつも、いや、声上げない方がナンセンスな気がしている。まぁ「声上げる」こと自体が疎まれるのが日本社会だが。

わたしは11歳の時に出演した舞台で初めて出演料をもらった。自分がプロだと自覚した時!ギャラは覚えてないしチケットノルマもごりごりあったからきっと赤字だったろうに親はちゃんとその報酬をわたしの貯蓄口座に入れてくれた。それから中高と細々ミュージカルに出続けて所得税も払って、お金を稼ぐという体験を重ねていった。当時は同じ舞台に出る大人たちの収入や生活が気になるということはなかったが、幼いなりに主演俳優さんの余裕ある佇まいと、劇団員さんの着古したTシャツを見比べて考えることはあった。でも、子役として舞台に出てお金をもらってることは、世の同世代からしたら特別なことだったし、多少歪んではいたとしてもそれが自尊心につながっていた節はある。「わたし、お金を稼いでいるんだぞ!」と。

しかし、「大人」になるにつれて「俳優」という生業でご飯を食べていくのは厳しいのではないかという不安が確実なものとなってくる。大学に入るタイミングで大手事務所に所属したが、自分を売り出そうと頑張るマネージャーは数少なく、売れたいならとにかく媚を売れ、痩せろ、という感じのスーパールッキズム芸能界地獄を象徴する世界だった。しかもなんとか手にした広告の仕事等で得たわずかなギャランティから「事務所の先輩の結婚のお祝い代」や、頼んでもいないのに自分の写真が掲載された「事務所のモデル図鑑の制作費」が引かれて振り込まれた。明細を見て、母と共になんじゃこりゃとおったまげたが、事務所に入ったのが初めてだったので、そんなもんなんだなと見過ごした。唯一良かったのは事務所の方針としてチケットノルマ制は断っていたので、宣伝・告知で無駄な時間を使わず稽古に集中できた。

そんなこんなで別に事務所にいても金銭的に保障されるわけじゃないと知った。そもそも所属俳優は従業員ではなく業務委託だから社会保障ゼロだし、著名ではない俳優への報酬は微々たるものだった。

大学卒業後もフリーで俳優(に限らず表現活動)を続けていくわけだが、常に様々な葛藤がある。
舞台に立てるならどんな仕事もやる!というパッションはない。仕事は選びたい。でもそんなこと言ってたらできる仕事ないのでは?
舞台だけでご飯たべれたらいいな!でも商業舞台に引っ張りだこのあの人もバイトしてるから無理な話なのでは?
何かのきっかけで有名になったらもっと稼げる?いやそもそも稼ぎたくてこの仕事選んだわけじゃなくない?

あぁ、この「そもそも誰も俳優業で稼げるなんて思ってない」という考えが危険なんだ。「だったら俳優への報酬は低くて良い」と思っている支配者たちの考えに染められてしまう。「好きでやってんだからいいでしょ?」に言いくるめられるやーつ。

わたしは家族の応援、安心できる家庭環境、都心に住んでいる、という特権があったのでありがたいことに俳優を続けてこれた。過去にはチケットノルマがある舞台にも出演したが、両親や妹の協力もあって何とか売り捌けた。本当にラッキーなんだ。地方から俳優を目指して一人で上京してきて、六畳一間のアパートに住み、早朝と深夜はコンビニでアルバイトをして(もしくは水商売)家賃を稼ぎながら舞台に立っている人(これは今勝手に想像した人物像だが)からしたら羨ましいにもほどがある条件と特権の持ち主だということを自覚している。
だからこそ、わたしよりも過酷な状況下で俳優を続けている人たちのためにも、わたしは多くを求め続けたい。自分にも言い聞かせるつもりでここに書き記しておこう。

  • 稽古期間にも報酬を支払ってください
    例えば稽古期間が1ヶ月半だとする。作品にもよるが週5日、本番近くなると毎日稽古をする。稽古に集中するためにバイトするのは精神的にも物理的にも難しくなる。だのに!!!!1ヶ月半無給!!!しかも舞台出演後1ヶ月〜3ヶ月経ってからギャラを振り込む団体もある。つまり最悪の場合4ヶ月弱無給!!!!普通に生活困窮します。アメリカでは例えば稽古期間中も週休約3〜7万円支払われる。健康維持しながら本番を迎えるためには当たり前の判断だと思う。

  • チケットノルマ制を廃止してください
    最近よく見るのは「ノルマはありませんが〇〇枚以上の券売を見込んで契約してください」のようなもの。目標として設定してもらえる分にはありがたいのだが、稽古終盤に差し掛かって券売がうまくいっていないと、稽古終了後にお説教タイム?お葬式タイム?的なのが始まる団体も過去にあった。「稽古後に飲み屋に行って友達作ってチケット買ってもらって!」と言っている制作スタッフや共演者もいた。無理。稽古後は家に帰って明日の稽古に備えて休息したいです。そもそも作品にお客さんを呼ぶのは俳優の仕事じゃない。棲みわけをしっかりしてください。「みんなでがんばろ〜!」っていうサークル活動とは違うんですから。

  • 二次使用する際はその対価を俳優に支払ってください
    ここ数年でライブ配信とアーカイブ配信も増えた。わたしが主催者の時はその配信の売り上げから何%分配という形で報酬を支払ったりするが、再配信されても何も支払われないケースも多い。「画面の中のわたしは再びしっかりと舞台で仕事をこなし、人の目に触れているのに。」何とも言えない気持ちになる。もちろん出演契約の時点で使用権を相手側に渡すことに同意しているのだが、ここの契約内容は今後個人的にも見直して、突っ込んで、改善してもらいたいと思っている。

  • 出演契約前に必ず報酬額を明示してください
    オーディションでは「報酬あり」程度にしか書かれていないことが多い。企業の求人情報には金額が明記されているのに不公平だ。わたしは出演依頼を頂いたらまずギャラ、稽古期間と頻度、稽古場所を聞く。それらを元にざっくり計算をして「不平不満を持たずに作品に全力で取り組める」と判断した場合に出演を決める。この姿勢をとれるようになったのは本当ここ数年の話ではあるが。フリーなので直接ギャラ交渉をする。一番苦手なパートだ。相手側の考えもわかるから心が傷む時もあるし、現にわたしのこのやり方でわたしをよく思わなくなった人もいると思う。でもやっぱり労働の対価に見合わないのに引き受けて、稽古や本番で「こんなに頑張ってんのに〇〇円か…」「〇〇円ならこの程度でいいか」と思ってしまうことを一番避けるべきだと思う。経歴関係なく多くの俳優がこのスタンスでギャラ交渉するようになれば、金額も上がっていくのではないか?と淡い期待も抱いて…。

現行中のアメリカのストでは、俳優が仕事をしないので多くの人々が困っている。自分は関係ないのに!と思っていた役職の人にまで影響が及んでその不満の声なども上がっている。あなたはそれを「かわいそう」と思ったかもしれないが、わたしは「ほれみろ」と思ってしまった。(笑)
どの役職が欠けても作品は完成しないはずなのに、あの大きいミュージカルで何万人ものお客さんから高額なチケット代を吸い取って優雅な暮らしを謳歌している人はだぁれ?ってことだ。なんなら見に来るお客さんはあなたを応援したくて1万も2万も払ってるのに、あなたはその2時間踊りまくってちゃんと2万もらえてますか?っていうお話。創り上げてきたものを最終的に舞台上でアウトプットするには絶対に俳優が必要なんです。トップオブザトップの方々は、ディレクターやプロデューサーに「でも好きだからやってるんでしょ?」と微々たる報酬を支払ってますか?んなわけあるかい!

あ、今思ったけどギャランティなのに何もguarantee(保証)されてなくて皮肉だわ。

このように、いろんな経験をしながら自分なりの判断軸を持って俳優を続けてきた。稼げないのにどうやって続けてきたかをシェアする。若き俳優や同じ悩みを持つ俳優たちの何かしらの救いになればいいなと思う。あくまでも個人的な経験談ではあるので、参考になればしてください。

  • 疑問・不安・不満があれば聞いてみる
    契約の時点でも、稽古中でも、本番中でも。権力構造によってできないこともあるが、身近な人に不満を打ち明けてみるだけでも効果はある。何かしらの新しい道が見えてくることもある。

  • 俳優として活動していることを発信する
    どれだけ大きな舞台に立ってるとか、どれだけ稼げてるとか、どれだけ有名な人とつながってるかとか、そういうことではなく、自分が今どんな姿勢で稽古に励んでいるかとか、どんな学びがあるかとか含めて誰かに伝えたり文章を書いたりする。人に話すことで自分のモチベーションが高まることがあるし、それを聞いたどこかの誰かがあなたに仕事を依頼することもある。

  • なるべく自分にあったバイトをする
    緊急性を要する時などは、仕方なく時間を犠牲にしてる感満載のバイトをしなきゃいけないかもしれないが、なるべく俳優業に理解のあるバイトを選ぶ。(こればかりは働いてみないとわからないことが多いが。)そして好きな要素が一つでもあるバイトを選ぶ。わたしは飲食が多かった。寿司屋(シンプルに美味しかった)、ドーナツ屋(留学前に早朝バイトで資金集め)、割烹料理屋(友人の紹介)、採点(暑い夏を涼しいオフィスで乗り切った)、ツアーガイド(英語を使えた)、かき氷屋(毎日かき氷食べたくて)、パン屋(家から近くて朝の時間を有効活用できてパンがうまい)などなど。ありがたいことにバイト先の人たちの理解と応援に恵まれている。舞台を見に来てくれたり、お店で宣伝してくれることもあった。そして、これだけはあなたにも自分にも忘れないでほしいのだが、「バイトすることは全然恥ずかしくない!」だってバイトしないと生活できないくらい俳優業がなめられてるんだから!(笑)バイトしてる自分を恥ずかしがるんだったら、俳優に十分な報酬を払えない芸能界を恥ずかしく思おう!そして声を上げてこう〜!

  • 稼がなくとも稼げなくとも表現を続けられる
    例えばコロナ渦、舞台がないからお金も入ってこなかった。まぁあれは想定外の状況だったから例えにするのも微妙かもしれないが、それでも歌いたい、誰かと一緒に何か作りたいという欲が勝って色んなことをした。今はほぼ無料で動画を撮って世界中に振りまくことができてしまうから。それを見てコンタクトをくれる人がいたり、ネット上でコラボした人とじゃあ次はリアルで何かやろうとつながっていったり。種まきをやめなければ小さな芽が出てくる可能性はなくならない。もちろん疲れたりやる気が起きない時はゆっくり休もう。

  • 好きという理由は立派な理由
    好きなことを仕事にするのは多くの人の目指すところだと思うし、俳優やアーティストはそれができているように思われがちだ。でもそれが前述したように搾取の理由になる恐れもあるし実際になっている。で、たまにわたしも考えるのだが、「好きでやってるんだからこれくらい我慢しろ」的な圧力を感じる→「え、じゃあ好きだからやってることは金銭的価値に換えられないということ?」「好きってだけで仕事にしちゃダメなの?」「嫌いなことやらないと稼げないの?」みたいな疑問。
    好きだからやってるのは素晴らしいことだし、別にそれで世界を変えたいですとか革命を起こしたいですとか、みんなに笑顔と感動をお届けしたいですとか、困っている人を救う表現がしたいですとか、みんながみんなそういう目標を掲げる必要はないと思う。で、どんな理由であれ俳優は立派な表現活動をしている職人だし、俳優業は職業として社会に、日本に、世界に認識されるべきだし、それに伴う対価を払われるべきだから。
    だって政治家のトップたちを考えてごらんよ。日本を変えたい、みんなを笑顔にしたいという人もいないし、この仕事が好きだから!という人すらいないのに大金をもらっているよ。ね、おかしいでしょ?だから好きを理由に舞台に立ってることは誇りに思おう!

ありがたいことに家族や仲間に恵まれて俳優としての活動を続けられています。もちろんこのサポートにも感謝しているし、色んな現場で感じ、学び、考え、取捨選択できるようになった自分自信にも感謝している!
アメリカでスト中の16万人と同じような行動を今すぐ起こせなくても、ぜひ自分と、身近な人とこういうことについて対話してほしいと思う。そもそも芸術の価値が高まらないと資金が集まらないから永遠に解決策見つからない、という問題にもどう立ち向かったらいいのかも含めて、疲れたら休みながら(だいぶ長く休んだっていいんだ、実践済み)考えることを止めないでいきたい。

ここまで読んだ人いる?いたら大きな拍手とハグを送ります。読んでくれてありがとうございます。暑いので水分補給を忘れずにお過ごしください。梅干しで塩分補給もオススメです!

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