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孤独な夜からの目覚め

仕事が早く終わったので、機材などを物色しに、私は夜の新宿に来ていた。一通り用事が済み、そう言えば、と思って、「でも、ふりかえれば甘ったるく」が陳列している様子を見に行こうと、本屋さんへ向かった。この本が発売される直前、元彼氏が、一緒に本屋さんに並んでいるところを見に行こう、と言っていたけれど、私は今、颯爽と一人で向かっている。未来はいつも、思い描いているものとは違う。思い描くから違ってしまう、とも言うのかしら。

店内は、仕事が終わったらしい人々で賑わっていた。本屋さんのパソコンで「デモフリカエレバ」と打ち込む。書名検索をして、陳列されている場所を印刷、 #でもふり  は、女性エッセイストというジャンルの中に並べられていた。陳列されている場所に突っ立って、一人でニヤリと笑う。この喜びは、誰と見ても、一人で見ても、きっと変わらないと思う。もしこの喜びに重さがあるなら、測りの針は、いつ測っても、ピタリと同じ数字を指すだろう。

ウキウキした気分そのままで、何か本を買おうと思い、文庫の書棚をバァーっと眺めていた。田辺聖子さんの本が、目に止まった。何となく、その本が読みたい気分だったので、「孤独な夜のココア」という、短編小説を買う。

タイトルに従って、私も一人、ココアでも飲みながら…、と思ったけれど、インスタントコーヒーあるなぁ、インスタントコーヒーでいっか、と帰る途中に決めた。でもやっぱり、それだけじゃダメだ!と思って、ホワイトチョコレートを食べながら、読むことにした。板チョコの。

恥ずかしながら、初めて田辺聖子さんの小説を読んだ。朝の連ドラ「芋たこなんきん」を、私は昔、ちょっと見ていた。だから、ヒロインを演じた藤山直美さんの声の調子で、私は小説を読んでしまう。面白くて、スイスイ読めて、でも、すぐに読んでしまうのが勿体ないから、少しずつ読むことに。

ウェブや雑誌で、連載記事や小さなコラムをかじって読むのが、もっぱら趣味の私にとって、久しぶりの小説だった。早く続きが読みたいと思いながら、大事にゆっくり進めていく私自身を、私は好もしく思った。

読み終えた昨日の夜、目が覚めたら快晴の青空、桜は満開、新しい季節の中に、いつの間にか居た。


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