【遠くに行かないで】どんな言葉が正解だったんだろう
私には、考え方、育った環境、価値観。人としての根底が根っから違う、不思議な縁の親友がいる。周りの友人にも、「なんでまにょとあの子は仲いいの?」と不思議がられるくらいに、私と彼女は違う。
私は、お金には苦労しない環境で育った。小中高はもちろん、大学費用まで親がすべて負担してくれた。学生時代の生活は親からのお小遣いで十分やりくりできた。だけど彼女は違った。彼女は高校に入ってすぐバイトを始めて、学校で必要な費用のほとんどを自分のバイト代から賄っていた。もちろん大学も。
私は、お金より愛、優しさ、人間らしさが大事だという考えだ。どれだけお金を持っていても、どうしようもない考えを持っている人はどうしようもない。お金より、人としてどう生きるか、何を考えて何を与えているのかが大事。だけど彼女は違う。人はお金がすべて。お金を多く稼ぐ人ほどすごくて、尊敬している。「私がもしも結婚を決めた時、その相手は絶対にそこそこの家に住まわせてくれて、家政婦も雇ってくれて、子供の教育にも十分すぎるお金をかけれれる。そんな人じゃないと私は絶対に結婚しない。」そう、彼女は言う。
私は結婚式で父に、「小さい頃からずっとずっと、優しいお父さんが大好きだよ。」と手紙を読んだ。だけど彼女は、「父親なんていらん。ほんまどうしようもない父親なんておらんほうがマシ。」と言う。
学生の頃のエピソードでよく覚えているのが、私が「あの先生可愛らしいのになんで独身なんだろうね〜」だなんて言うと、彼女が「は?どこが?あんたよう見てみ、めっちゃブスやん」と言ってきたこと。あぁ、私は目の前のものを概念としてなんとなく捉えているけど、彼女は目に見えるもの、表面的なものは真を見ているんだな、そしてその真から受ける感情、感想に嘘はないんだな、と感じた。彼女がすごく正直な人に思えて、私はそんな彼女が好きだったし、かっこいいとさえ思った。
根っから違う私達。
なぜ彼女が私とここまで仲良く付き合ってくれるのか、今でも不思議に感じる。バイト生活の彼女は、父に買ってもらった高級腕時計を身に着けている私を、学校帰りに塾に行く私を、薬学部に通う私を、どんな目で見ていたんだろう。綺麗事ばかり並べる私を、どんなふうに捉えていたんだろう。「お金勿体ないから基本結婚式は行かん」と言う彼女は、どんな気持ちで私の結婚式に参列してくれたんだろう。
(ちなみにだけど、私は彼女に1度も金銭に関することでねだられたり貸し借りを要求されたことはありません。外食費用や旅行費も全て折半です。つまりはというと、お金で繋がっている縁ではないということ。)
そんな彼女と、1年半ぶりに会った。
この1年半の間に、私は結婚して、妊娠した。
彼女は言う。
「私はほんまに全く結婚したくない。なんしに結婚するん。」と。
「もしもほんますんごいお金持ちが現れたら結婚するで。でも、中途半端なお金持ちやったらせん方がマシ。お金に全く不安のない贅沢な暮らしさせてくれる人じゃないと結婚に魅力を感じひんわ。」
そういいながら、アップルジュースをぐびぐび飲む。
そして言う。
「私に特定の相手は重荷やわ。彼氏とかほんまにいらん。私は第2の女ポジションがいっちばん気楽。好きな時に会って、ほんでバイバイして。束縛もないし嫉妬もないし失うものがないから楽やん。私の帰る場所は私の家。相手のもとじゃない。私はほんま正直、妻子がおるけどたまに遊びたいねん〜っていうちょっとお金もってる人と遊ぶのが楽しい。」
結婚した私からすると、複雑な言葉だった。世の中に存在する不倫相手という人は、こんな気持ちで既婚者と付き合ってるのかな?だとしたらあまりにも身勝手すぎるな、だなんて考えながら彼女の言葉を聞き続けた。聞き続けられたのは、結婚した私に対してもここまで正直に、真っ当な考えではないと自分でもわかっているその考えを、私に淡々と話すから。私は昔から、この正直さが好きだ。
「最近飲み屋でダブルワークみたいな形でバイトしててさ。その店の近くにスナックみたいなとこがあるんやけど、そこのママさんがえらい私のこと気に入ってくれてさ。あんたそんな考えやったら、うちにピッタリやからうちでバイトせえへん?って言うてくれて。うちのお客さんなんて、ほとんど既婚者でそれなりにお金持ってて、そういう軽い付き合いの女の子探してる人多いで〜って。いくらでもそんな遊び相手おるから、うちでバイトせえへん?って言われて、ちょっと揺らいでんねん。」
私は少し、怖かった。
そこで彼女が働き出すと、根底から私と違う彼女が、より私とは遠い違う世界へと飛び立ってしまいそうで。昼の世界と夜の世界とではまったく違う世界線が繰り広げられていて、彼女が夜の世界へとずぶずぶ入っていくと、さすがの私達でも埋められない溝ができてしまうと、怖かった。夜の世界で生きる人が、やすやすと彼女の考えを肯定して彼女を引き入れることに嫌悪感を感じた。
だけど、不思議な縁の彼女と私。
彼女が私の環境に嫉妬したり、私の考えに嫌悪感を抱いても全くおかしくないし、私が彼女の考えに嫌悪感を抱いても全くおかしくない、離れても「そりゃそうだろな」となる不思議な私達の縁を強力につなぎ止めているポイントが、
「お互いの人生を否定したり干渉しないこと」
これだった。
少し話が逸れるけど、私を今流行りのMBTIとやらで分類すると、INFP・仲介者という枠に分類される。このINFPに分類される人の特徴として、他人の考えや価値観に対する共感力が高く、それを受け入れようと脳が働く。つまり、それと逆である「価値観の否定」というのをひどく嫌う。自分の考え方や価値観を否定されること、もしくは他人に押し付けられることに拒絶反応を起こしやすいらしい。
これを読んだ時に私は、「MBTIって結構あたってるんやな〜」と感じた。私はまさしくそれだった。自分の考え、価値観は30年も生きているとそれなりに色濃くはっきりしてきたけど、それを他人に押し付けたことはない。そして、他人の価値観を「それは違うやろ」と真っ向否定したことも一度もない。
彼女に対してもそうだ。結婚相手の条件に対する考え方、お金に対する考え方、彼女持ち妻子持ちの人の第2の女になりたいという考え方。
その全てに「わかるわ〜」と頷くことはできない。むしろ私の中では「完全NG」に近い。けれど、「そうなんだ」と、本当に他人事のように話を聞ける自分がいる。どこか冷たい人間なのかな自分はと感じてしまうほど、他人事。
こうして、良くも悪くも他人事の私に対し、「あんたは1回も私の人生とか考え方を否定せえへんやん」と彼女は言う。彼女は私のことをよくわかってる。
「ここまで違ったら、普通は長く一緒にはおらんで。私達が一緒におれる唯一の理由は、お互いの人生に口出ししたり否定せんからやな。」と彼女は笑う。
私が彼女を否定しないように、彼女も私を否定しない。
彼女はここまで金銭的状況が違う家庭で育った私に、妬ましさを込めた言葉を一度も吐いたことがない。「年収がめちゃくちゃに高いわけではないけど、夫の優しさとか人間力とかを見てたら、ほんまにこの人と結婚してよかった」と笑う私を、「ほ〜ん、そう思える人と出会えてよかったやん」と言って笑ってくれる。
こうして、お互いに深く共感をすることはなくても繋がってきたこの縁が、今分岐点に立っている気がしている。
彼女がずぶずぶと夜の世界に行ったらどうしよう。彼女が浮気や不倫に馴れを感じてしまったらどうしよう。私が極端な嫌悪を抱くその世界に彼女が踏み入れたら、私は彼女を受け入れることができるのだろうか。
怖かった。
だけど、なにをどう話せばいいかわからなかった。
私には、否定する勇気がない。
考えに考え抜いて私は、こう話した。
「正直、友達としては寂しい。誰かに必要とされたり、心から大事にしてくれる人と出会えたり。その縁一つで〇〇(彼女)の人生は少し変わるきがする。第2の女でいい、だから帰る場所は自分1人住む家でいいっていう考えは、私は寂しい。でも〇〇のことやから、ほんまに働くとしたら考えに考えた結果やろうし。軽々しくはせんやろから、まぁ見守るというか。元気で幸せにいてくれたら私はそれでいい。」
そんな言葉しか、伝えられなかった。
皆なら、彼女になんと言葉をかけるのだろう。
私には正解がわからない。
縁が切れてしまうのではないかという私の不安を、彼女も感じてくれたら嬉しい。
そして、
誰か、この世界の誰かが。
育った環境ですっぽりと空いた心の空虚を、必死にその強さで埋めようとする彼女に、優しさと思いやりの手を差し伸べる人が現れてほしい。
誰か、
助けてあげてほしい。
助けてだなんて、
彼女はそんなことを望んでいないかもしれないけれど。
「赤ちゃん産まれたら会いにいくわな、元気な子供産みや!!!」
そう笑う彼女と、
ずっと不思議な縁が続くといいな。
まにょ。