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オランダ観察日記 涙の最終回 EURO2020 決勝トーナメント1回戦VS.チェコ

 いやー私の優勝予想一回戦で散る(笑)。ということで自分の慧眼のなさを存分に発揮しました。「まぁー不測の事態でしょあんなの」で済ませたいところですが、今大会追っていくと決意した手前そんな終わらせ方は嫌なので、今回はオランダがなぜ負けてしまったのかということを中心に書いていきたいと思います。

(Youtubeチャンネル"WOWOWofficial"さんより)

文字通り「準備」してきたチェコに苦しむオランダ

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(SofaScoreさんより転載)

 両チームのスタメンと前半のスタッツは以上の通り。オランダのゴール期待値が意外にも高いですが、"Big Chances"判定されたのは恐らく7分のCKからのデリフトのヘディング+デパイのシュートだと考えられます。あとのシュートは32分のCKの流れからのPVAのミドルシュート、オープンプレーでは30分のマレンのブロックされたシュート、PVAの45+1分のオフサイドとなったシュートとなっていて正直ゴールの匂いがしたのはデリフトのヘディングぐらいで、それもセットプレー+枠外です。今まで前半から総攻撃をしていたオランダがこのような状態に陥ったのには、もちろん選手のコンディションも影響していましたが、やはりその大部分はチェコの振る舞いに起因していたといっていいと思います。

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 上の図とその原則に基づいてチェコはプレッシング及び撤退守備のボール非保持時のプランを遂行していました。オランダの初戦の相手であるウクライナも同じ4-1-4-1の配置であったが、オランダの両シャドーにアンカー脇をうまく利用されて崩されるシーンが多かったですが、チェコはアンカーのホレシュをワイナルドゥムとデートするというタスクを与え、空いてしまうデパイは右サイドの3人で対応するというスタンスをとることでオランダの両シャドーを自由にさせませんでした。ワイナルドゥムが試合から消えていたのはそのためでしたし、ホレシュ以外の選手はライン間では基本的にデパイにさえ注意を払っておけばよいので、頭が整理された状態で迷いなくデパイを誰かが見て誰かがカバーというような動きが徹底されていました。

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 実際にこれと全く同じシーンがあったわけではないですが、イメージ的にはこのようなかたちで撤退守備でもオランダの攻めに対応していて、とにかく「①ライン間にいる選手を捕まえる②中盤は逆サイドの選手も含めて全力で中央の門を閉める」ということが徹底されていて、オランダが中央を使えないときのふとごろ刀として装備していた①「前線の裏抜け」にはついていく選手がいるし、②「大外での攻め」は5バックときには6バック気味にもなることにより封印されてしまい、八方塞がりとなっていました。そもそもの問題として、オランダはチェコのほぼ同数によるプレッシングに苦しみ、FKなどを得て前進するのがやっと、前進したとしても堅い守備に攻めあぐねて結局はボールを奪われるということがほとんどでした。このようにオランダがうまくいっていない状態はは以下のようなデータでもわかる。

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もちろん相手や状況の違いも踏まえなければいけないが、前線からプレッシングを掛けてきたオーストリア戦と比べ、ポゼッション率は上がっているのにも拘らず、その他のデータが全て悪化しているということはボールは持っていたけどほとんど効果がなかったといえるでしょう。

 チェコもオランダのプレッシングには流石に苦しみましたが、基本的にはオランダボール保持⇒嫌な奪われ方をする⇒ネガティブトランジションでのプレッシング(カウンタープレス)が効かない⇒チェコのトランジション攻撃orボール保持ターンという循環になっていて、チェコがビルドアップする機会というのはそう多くはなかったです。また、ゴールキックなどビルドアップをしなければいけないシーンでも、WGに幅を取らせてオランダのWBに縦スライドをさせないなどの対策も準備しながら、「困ったら空中戦」ということを念頭に置いていたため、プレッシングでボールを奪われての危険なシーン(オランダのチャンス)というものは見られませんでした。

 以上のように、チェコの入念な準備によって何をやってもうまくいかない状態となったオランダは前半を0-0で折り返しましたが何らかの修正が必要となりました。

ビックチャンスで見せた修正の一端と一発の恐さ

 後半もチェコのキック&プレススタイルに押されていたオランダですが、トランジションからボール保持の局面となり、ブリントが比較的高い位置で「時間」を得ると、決定機を創出します。

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(図にも書いてありますが、ハイライト動画を見ながら、見て頂けるとより分かりやすいと思います!)

 ブリントがハーフスペースで「時間」を得ると、ダブルボランチは高い位置を取り、ブリントに対してスペースを与え、ワイナルドゥムがボランチと同じ高さまで降りることで空いていたスペースにデローンが侵入。それと同時に、デパイもタイミングよく相手IHの脇に下りてきて絶妙なスルーをかまします。デパイが下りることによって空いたスペースにマレンが入っていて、マレンはそこで前を向いてボールを持つことが出来ました。通常であれば、マレンとの1対1に晒されたチェルストカのカバーにカラスが入らなければいけませんが、カラスは当初のマーカーであったバラークに受け渡されたデローンに一瞬釣られてしまいカバーに遅れと迷いが生じたことによってマレンはGKと1対1まで持ち込みました。もちろんデパイのスルーという高等技術によって生まれたチャンスですが、そこにおいて①ボランチが高い位置を取ることによるCBへのスペース提供②縦のポジションチェンジ(デローンとワイナルドゥム)というマンマークの相手に対する解答をオランダが用意してきたことが機能したということとも忘れてはいけません。(ワンチャンスなので若干こじつけっぽいですが。)いずれにせよ、オランダ11人で戦っていたら先制していたという可能性を見せました。可能性…

 ただその可能性は0になってしまいました。完全なるデリフトの判断ミス(ハンドで退場よりも失点した方が良かった)ですが、結果論なので何とも言えませんし、デリフトは前半にチェコの決定機を防いでいますし、彼のDF本能が暴走してしまったということなんだと思います。サッカーはミスのスポーツなのでしょうがないです。一方で、そのミスが命取りになるとのも(得点が生まれにくい)サッカーの特徴なのですが。

 デリフトの退場以降は4-4-1にシフトしますが、68'にセットプレーからの失点によって万事休す。前がかりになるオランダに対して80'にはトランジションから追加点を奪取したチェコの完勝となりました。オランダとしては10人になると、今まで自分たちが相手に敷いてきた5レーンを幅広く使った攻めをチェコにやられるという何とも皮肉な後半でした。

 チェコは前半にオランダをあれだけ苛立たせた時点で勝ちゲームだったのかもしれませんね。とにかく個人攻撃はやめましょう。11人で勝っていた保証はありませんし、チェコのサッカーが素晴らしかったことによる結果です。準々決勝もカメレオンなデンマークにどう挑むのかが楽しみです!では。


タイトル画像の引用元:Contando Estrelas "Bandera de los Países Bajos"

※この画像は CC BY-SA 2.0の下に利用されています。

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