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サウサンプトンVS.マンチェスター・ユナイテッド レビュー

 ディレイで見たので、熱量は皆さんほどではなかったと思いますが、ブルーノの超絶スーパーゴールにカゼミロのデビューと面白く、充実した試合でしたね!
 スタイルをガラッと変えたリヴァプール戦からメンバーを変えずに挑んだこの試合。サウサンプトンは割と1節、2節の相手のブライトン、ブレントフォードを踏襲するかたちでプランを組んできましたが、リヴァプール戦を経てユナイテッドがその2試合から変わった部分と(結果的には)そうでない部分を中心に書いていければと思います!

①スタメン

Ⅰ.前半 それぞれの狙いと結果

1⃣セインツのロングボール⇒またしても狙われるリサンドロ

②スタッツ[左:サウサンプトン 右:ユナイテッド](Sofascoreより)

 ロングボールを言及するときに、毎回出している気がするSofascoreのスタッツ。何回目だよ!といわれるかもしれないけど、ユナイテッドにロングボール大作戦する相手何回目だよ!と自分が言いたいくらい。今のところリヴァプール以外、3チーム全てがロングボールによるビルドアップの「省略」を行っている。1節のレビューでも言及したが、ブライトンが1試合目で生み出した"対ユナイテッドの教科書"をブレントフォード、サウサンプトンが踏襲しているといってもいい。
 そして、その3チームのロングボールでのビルドアップに共通しているのが、リサンドロのいる「ユナイテッドの左サイドを狙う」ということだ。テンハグがいうように彼自身の空中戦の勝率はそこまで悪くない。ただ、(少し嫌な言い方になるが、)相手チームが175cmのCBの選手の空中戦を狙わない手はない。
 サウサンプトンは第1節から51本(VS.スパーズ)、56本(VS.リーズ)、70本(VS.レスター)と比較的ロングボールが多いチームで、この試合の59本、成功率44%は特別大きな数字ではない。しかし、空中戦そのものの勝率ではなく最終的にどちらにボールが渡ったかを記録している自分の集計では、30本中20本(66%)がサウサンプトンのボールとなって、彼らがロングボールでの前進(ビルドアップ)に成功しており、見ている感覚としても、第1節、第2節よりもユナイテッドは相手のロングボールに苦しんでいる印象を受けた。

 なぜ、そうなったのか。後付け的にはなるが、その理由として考えられるのは、アダムスの屈強さに加えてこの試合のユナイテッドのリサンドロ、マラシア、エリクセンという左サイド3枚の起用である。
 この試合、リサンドロと同じく空中戦で狙われていたのがマラシアであり、第1節、第2節ではショーがリサンドロに代わって競り合うシーンもあったが、169cmとこちらも上背のないマラシアがその役を担ってはいなかった。また、(恐らく1節・2節の反省として、)守備時に以前のマンツーマン気味ではなく、ゾーン気味にダブルボランチの一角として振る舞っていたエリクセンだったが、彼もセカンドボールを拾うのに長けた選手ではない。
 もちろん、リサンドロの空中戦勝率は高い数字であるが、上背がない分、「そのボールを大きく弾き返さない→ボールがその周辺にこぼれる→相手はそれを狙って密集している→相手ボールになる、押し込まれる」という悪循環が起こっていた。鶏が先か卵か先か的な話になるが、相手がロングボールを有効な策と考えているからこそ、これだけ狙ってロングボールを蹴ってきており、それを警戒してユナイテッドのDF陣がラインを上げきれていないということもある。
 彼個人を槍玉にあげるつもりは全くないが、リサンドロをCB起用する限り、この問題とどう付き合うかというのはチームの問題としてユナイテッドは考える必要があるかもしれない。

2⃣ユナイテッドのボール保持攻撃での狙い

 1節、2節と比べてビルドアップでのロングボールは増えたものの、リヴァプール戦に比べるとボールを保持していたこの試合のユナイテッド。その局面では、保持攻撃における変更点とこの試合での狙いがはっきり見えたので、その点について言及したいと思う。

③サウサンプトンのボール非保持での振る舞い

 この試合のサウサンプトンは、相手陣内深いエリアからハイプレッシングを行うのではなく、ピッチを横に3分割した際の真ん中のエリア「ミドルサード」からのプレッシングを敢行。フォーメーションは違うが、そこからサイドに誘導し、選択肢を限定するという点も、PSMで対戦したアストン・ヴィラに似ている。配置は4-2-4(もしくは4-2-3-1)気味で、③の赤の点線で示したような守備の基準点を設けながらも、ボールと相手の立ち位置に合わせて中央へのパスコースを封鎖するようにポジショニングしていく。また、オレンジの点線で示した縦スライドで数的同数でのプレッシングを行うこともあるといった感じだ。

➃ユナイテッドのボール保持での狙い「中盤のサイド流れ」(右サイド)

 そんなサウサンプトンに対して、ユナイテッドは➃のようなブルーノ、エリクセン(、たまにマクトミネイ)という中盤の選手の「サイド流れ」によってサイドで3対2を作るという、これまたアストン・ヴィラ戦と同じような狙いでのボール保持攻撃を行っていた。

⑤ユナイテッドのボール保持での狙い「中盤のサイド流れ」(左サイド)

 左サイドでも、右サイドと同様にエリクセンがサイドに流れることもあったが、左サイドでは元からサイドに張り気味だったサンチョが⑤のように相手SB-WG間でボールを待ち、エリクセンが相手のCB-SB間での裏の駆け引きを行うことが多かった。
 どちらにせよ、ユナイテッドのこの試合の狙いは中盤の選手のサイドへの係わりによって相手のSBとWGに対して3対2の数的優位で「追い込まれても、そのサイドから」前進、崩しをするということにあった。

 このような狙いからの一連の流れで24'にCK、44'にはFKを獲得したり、(トランジション気味ではあるものの、)19'にはビックチャンスにつながる前進ができていた。ただ、いずれも効果的に前進できたのは⑤のようなWGが相手SB-WG間でボールを受けたときで、右サイドからの前進は若干の機能不全に陥っていた。右サイドでの➃のような局面の場合、相手のDFラインの選手が引き出されないまま、中央のパスコースもほとんどなくなっており、(ヴィラと違って)4トップ気味でサイドに追い込んでいく守り方をする相手にとっては守りやすかったのではないかと思う。(失敗に終わったが、24:55~のようなシーンが中央を経由した理想的な崩しだったのかもしれない)

Ⅱ.後半 両チームの戦況に応じた攻防

1⃣ユナイテッドの"エランガ周り"の立ち位置の修正

 Ⅰ2⃣で言及したように、右サイドからの前進がうまくいっていなかった前半のユナイテッド。細かいところまでは正直わからないが、後半に入って明らかに右WGエランガの立ち位置の修正が行われており、それによってチャンスの創出、そして得点の演出まですることができていた。

⑥ユナイテッド右サイドの立ち位置修正⇒エランガが幅を取る

 後半のユナイテッドは⑥のようなかたちで、前半の左サイドで見せた⑤のような局面を右サイドでもつくるように立ち位置を取っていた。前半ほとんど幅を取ることがなかったエランガがサイドラインに張り出すようになっており、その点は明らかにチームとして変更した部分であったと考えられる。そして、ラッシュ、マクトミネイがひし形をつくるようにポジショニングし、相手CB-SB間に立つラッシュは相手SBをピン止め、マクトミネイは相手CHを牽制する役割も担っていた。
 この修正によって、前半はなかったダロトから斜め(ラッシュ)のパスコースも確保されたことに加え、相手左SBが基本的なマーカーとなっているエランガが大きなスペースを得て、ドリブルで仕掛けられるようになっていた。修正されたこの右サイドの局面から49’,51’と立て続けにチャンスを作り、⑥でのダロトの位置にヴァランがボールを持った54:10~のシーンでは、ダロトが⑥のポジショニングをしたことで、さらにサイドでの数的優位ができ、ヴァラン→エランガ(幅)→サンチョ(一時的にCFのポジション)→ダロト(相手CB-SB間から幅を取るような動き出し)とつながり、ダロトのピンポイントクロスをブルーノがうまく合わせ、ユナイテッドの華麗な得点が生まれている。

(見てわかる通り、エランガがボールを持ったときにダロトが相手CB-SB間に立ち位置を取ることで、相手左SBジェネポがアプローチするのを躊躇させ、エランガにスペースを供給しています!必見!!)

(ゴール前の攻防しか映っていませんが、これが51'[50:48~]のシーンです!)

2⃣サウサンプトンの3-1-6とリャンコのFW起用

⑦サウサンプトンの3-1-6アタック

 1点を失ったサウサンプトンは、(前半から見せていた配置ではあるが、)両SBが幅を取り、ダブルボランチがバランスを取るかたちの3-1-6アタック。ロングボールによって相手を押し込む前提でのこの攻めに重きを置いた配置は、ユナイテッドの重心を強引に下げさせるかなり厄介な攻撃となっていた。守備では後手を踏むことも多かった左SBのジェネポも本職のWG的な立ち位置で存分に自分の武器を発揮していた。
 ただ、リヴァプール戦からの継続として、前線の選手を中心に全体が献身的に走ることができていたユナイテッドはサウサンプトンのこの"死なばもろとも"の攻めを防ぐことができていた。(サウサンプトンの明確な決定機は、66'のアリボのヘディングだけだと記憶しています。)

 最後は長身CBのリャンコをFWに起用して最後まで空中戦を狙い続けたサウサンプトンだったが、最後の部分では相手に仕事をさせなかったユナイテッドのDF陣の踏ん張りもあり、スコアは0-1のまま終了。接戦でしたが、ユナイテッドの勝利という結果は妥当といえる試合内容だったかと思います。

Ⅲ.第1・2節からの反省と引き続きの課題

 リヴァプール戦でPSMからのスタイルを捨て去ったようにも見えたユナイテッド。サウサンプトン戦では、「ボールを持たせてくる相手にどう振舞うか」が注目されましたが、1・2節からの反省を活かした点は見られました。例えば、ショートパスでのビルドアップにこだわらずに同数でプレッシングする相手にはロングボールを蹴るとか、相手のロングボールを警戒して中盤の選手を相手のダブルボランチにマンツーマン気味にぶつけるのではなく、最初からダブルボランチを置いてゾーン気味に対応するとか。
 ただ、依然として残された課題として、やはり「相手のロングボールをどう対処するか、回収するか」ということがあるかと思います。リサンドロをCBで起用し続ける限りこの問題は付きまといますが、それが(この試合は途中出場だった)カゼミロの起用によって劇的に変わるのか、それとも(怪我から復帰した場合、)左CBのファーストチョイスをリンデレフにするのか、そこにチームとしてどのような解決策を提示するかというのは今後の注目ポイントだといえます。逃げ道としてボールを70%ぐらい保持しまくるという手もありますが、それを諦めたのが今季のユナイテッドなので。

 不安や懸念も色々ありますが、相手を押し込んでのボール保持攻撃が相手にとって脅威であるということが1節・2節から消えることなく残っていたこと、3節リヴァプール戦から引き続いて選手が懸命に「走る」ということができていたことは、この試合におけるかなりの収穫でこの試合のような内容を継続できれば、安定して勝利を飾ることはできるとは思います!
 次戦は最下位とはいえ、曲者のレスター。また楽しみな試合です!では。

タイトル画像の出典
https://www.whathifi.com/advice/southampton-vs-manchester-united-live-stream-and-how-to-watch-the-premier-league-2022


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