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PSM マンチェスター・ユナイテッドVS.アストン・ヴィラ レビュー

 ども。いい試合でしたね。前半はともかく、後半は苦戦した印象が強かった今回のヴィラ戦。前回同様、マッチレビュー形式でユナイテッド、ヴィラ両者の振る舞いに着目しながら、試合を紹介できたらと思います。ではいきましょう!

①スタメン

 両チームのスタメンはこんな感じ。ユナイテッドは前回同様の4-3-3でマクトミネイが怪我なのか、IHにVDBを起用、一方のヴィラも新加入のジエゴ・カルロスやカマラとベストメンバーで4-3-2-1や4-3-1-2など昨季使っていた配置を採用し、振る舞い方にも昨季からの継続による積み重ねを感じました。

Ⅰ.ヴィラの"ミドルゾーンプレス"と
ユナイテッドのお構いなし感

1⃣ヴィラの4-3-3による"ミドルゾーンプレス"

 この試合の前半のヴィラはユナイテッド陣内深くでのプレッシングを行うことは少なく、ピッチを3分割した際の真ん中のエリア、ミドルゾーンにブロックを敷き、そこからのプレッシングで相手に効果的な攻めをさせず、ボールを奪うことを狙っていました。

②ヴィラのプレッシング【中央→サイドへの誘導】
③ヴィラのプレッシング【サイドでの局面】

 ヴィラのミドルゾーンでのプレッシングのキーワードは「サイドへの追い込み」「鎖」
 ②のように中央にボールがある状況では2トップがユナイテッドのCBの正面付近に立ち、中央へのパスコースを限定し、ゆっくりとサイドにボールを誘導するように相手CBに圧力を掛ける(激しいプレッシャーや深追いはしない)。
 ③のようにサイドにボールを誘導してサイドでの局面を作れたら、CFとIHの2枚でボールホルダー(ほとんどSB)の前と後ろの選択肢を一気に奪うように強烈なプレッシャーをかける。その際、パスコースとなる相手のIHにはアンカーのカマラ、相手WGにはSB、CFにはCB2枚と数的優位が確保された状態でそれぞれが相手を激しくマークし、パスカットやプレスバックによる挟み込みで相手からボールを奪い取っていくという意味で「サイドへの追い込み」がキーワードということだ。
 そして「鎖」。これはゾーンディフェンスの基本でもあるが、アストン・ヴィラの場合、黄色の線で描いたように相手のボールホルダーから見て「3-3-4」の3つの「鎖」を作ることで、相手の選択肢を奪うやり方だ。これはリヴァプールのプレッシングを説明する際にも用いられるもの。ボールホルダーにとっては相手の3つの「鎖」でできた大きな壁が押し寄せていくような恐怖となる。
 ジェラード監督の古巣リヴァプールのスタイルからインスピレーションを得ていることは間違いないが、1つ目の「サイドへの追い込み」という部分がアストン・ヴィラのプレッシングの特徴であり、WGが外から中にプレッシャーを掛けるリヴァプールと異なる部分だろう。

2⃣中央封鎖4-3-3を相手にした常套手段

 このように3トップで中央を封鎖する相手のブロックに対しての常套手段として「ダブルボランチで中央を経由してサイドに展開」という方法がある。

④3トップに対する常套手段

 ④の図は概念的なものになるので、この試合で起こった局面でもなければ、試合で必ずしもこのような局面が作れないことに留意する必要があるが、リヴァプールの4-3-3を筆頭に3トップの相手に対する常套手段として、④のようにCBの前にダブルボランチを配置して3トップ間に立たせることで、3トップの距離感を縮めて守備側のIHに基準点(マークの相手)を与える方法がある。これによって、相手SBとWG(この試合ではCF)から味方SBの距離を広げることができるだけでなく、CB→ボランチ→SBと「中央を経由してサイドに展開」すれば、味方SBにより膨大な「時間」を供給することができるという魂胆だ。
 このSBが与えられた「時間」と「スペース」から、一度リセットしてボール保持を安定させたり、「崩し」のフェーズに入ったりすることができる。この手段は、いわゆる相手にとっての「はめパス」となるCB→SBへのパスを防ぐという狙いもある。
 ただ、テンハグ監督が採ったのはダブルボランチを置く策でもなく、逆にこの「はめパス」を使った高速の崩しであった。

3⃣追い込まれたサイドで攻撃!をするユナイテッド

 このシーンは後半12分のシーンになるためヴィラのかたちが少しだけ異なるが、この試合のユナイテッドの崩しの典型的なかたちである。

⑤ユナイテッドの崩し【中央→サイド】
⑥ユナイテッドの崩し【サイドの局面(1)】

 ユナイテッドは相手の4-3-1-2プレッシングに対してCBがボールを持ったときにアンカーのフレッジがサポートすることで、CFやIHなどの中央の選手がSBに到達するのを遅らせたうえで、CB→SBへの「はめパス」を出したところから、崩しをスタートさせる。
 SBがボールを持つと、中央に構えていたIH、WGがサイドに流れる動きをすることでSBにパスコースを供給しながら、自身のマーカーの選手を中央から釣りだし、その空いたスペースにマルシャルが侵入し、斜めのパスを受ける態勢をとる。

⑦ユナイテッドの崩し【サイドの局面(2)】

 左サイドで多くみられたのが、SBのショーがボールを持った際に、IHのブルーノがサイドに流れてその空いたスペースでラッシュフォードがボールを受けようとするかたち。
 右サイドでもマルシャルを含まないSB-IH-WGの3人が斜めの直線状に並んだ状態からの動き出し・関係性で崩すシーンも見られたわけだが、このような選手が(斜めに)一列に並んだ状態から間に位置する選手がサイドに流れる動きはフットサルの「パラ」の動きに似ているといわれている。このIHの「パラ」の動きに相手アンカーなどの中央の選手が釣りだされれば、WGもしくはマルシャルが控える中央のパスコースが空き、相手がそれを警戒して中央を固めれば、そのままサイドに流れるIHやWGにボールを送り、崩しを仕掛けるという二段構えになっているため、ヴィラ側からすれば「サイドに追い込めてはいるのに、奪えない、相手に前進を許す」という苦しい状況となっていた。

 そしてユナイテッドの1点目もこのSBからの崩し。本節の最初に添付した動画では、サイドに流れたサンチョにボールが渡る形でチャンスを創出をしたが、この1点目は⑥のようにIHのVDBとWGのサンチョが相手選手をサイドに釣りだしたスペースに侵入したマルシャルにボールが渡り、左サイドへの展開をつなげて得点が生まれている。まさに狙ったかたちを再現性を持って続けた結果がもたらしたゴールだったといえる。

Ⅱ.ユナイテッドの2点目と
効いたヴィラのHTでの修正

1⃣空いたフレッジとユナイテッドの速い攻め

 上述したようにヴィラは「狙ったかたちが上手くはまらない」という問題を抱える中、一瞬の隙を許すかたちで2失点目を喫する。

このシーンでは、フレッジがフリーでボールを持った状態から、マルシャルとVDBの列を下りる動きで相手のブロックを釣りだしたところに、両WGの抜け出しにピンポイントでボールが渡り得点に至っている。ここから2つのことについて触れたいと思う。
 まず1つは、フレッジがフリーだったということについて。上述したようにこの試合、コウチーニョがフレッジをマークするタスクを与えられていたようにヴィラの前線の3枚はユナイテッドのCBから直接中央にボールが渡ることを防ぐことを最重要課題としていた。しかし、このシーンでは突然の大雨も影響したのか、流れの中でコウチーニョが右にいるにも拘らず、2トップがフレッジをマークするタスクを代わりに請け負うわけでもなかったため、グワイアから直接フレッジにボールが渡り、フレッジは落ち着いて裏へのパスを出すことができている。
 DFラインの対応が良くない点やフレッジが驚きのパスを出した点など他の要素も影響しているが、ハイラインを敷くヴィラの守備構造においてアンカーのフレッジを「空けてしまった」というイレギュラーさがこの失点の1つの要因と考えられる。
 もう1つは、ユナイテッドがこの試合を通して、ハイラインを敷くヴィラのDFラインの裏を狙っていた積み重ねが得点につながったという点だ。上述したようにユナイテッドは相手の「サイドへの追い込み」に従って、限られた「時間」の中でSBから縦方向へのパスで攻撃を加速させる崩しをしていった。
 この試合に限らず、テンハグユナイテッドではボール保持だけでなく、この「縦の速さ」というのはかなり意識されている部分のように見え、前線の選手の頻繁な裏への動き出し、出し手のまず相手のDFラインの裏を狙うという意志が感じられる。この試合を中心に、このチームでは「ボール保持のためボール保持」ではなく「ゴールを奪うためのボール保持」が実践されており、その部分がこの得点を結実させたのだろう。

2⃣2点ビハインド、勝負に出たヴィラのプレッシング

 狙い通りに相手の攻撃のサイドへの追い込みは出来ているのに、守備が上手くいかないヴィラ。2点ビハインドということもあり、後半からは思い切ってプレッシングの開始ラインを上げて、相手陣内深いエリアから激しいプレスを敢行した。

⑧ヴィラの相手陣内深い位置からのプレッシング

 相手陣内深いエリアでプレッシングをする場合大きなリスクを負うわけで、当然ながらボールに対してより激しいプレッシャーを掛ける必要がある。ということで、ヴィラは前半からのプレッシングのかたちをマイナーチェンジさせ、「4-3-1-2による数的同数プレッシング」を行っていった。
 前半からの変更点でいえば、2トップは前半よりも相手CBにプレッシャーをかけることに専念し、相手SBにボールが出たときのプレス要員は基本的にはIHのみにする。また、トップ下に入ったブエンディアがフレッジを「マークする」のではなく「コースを消す(=背中で見る)」ことで2トップと連動して相手の4枚のDFにプレッシャーをかけるユニットとして働いていた。
 この激しいプレッシャーに晒されたユナイテッドは、66'のようにSB→アンカーのパスコースを見出すことによる前進はあったものの、ビルトアップに苦労してしまい、ボールを奪い取られたり、有効に使えていた縦パスも50/50のボールが増えてしまい、ユナイテッドの狙う「整備された速いサッカー」か「ただただ速いサッカー」という状態となり、試合はお互いのトランジション合戦の様相を呈していった。これは、両チームの陣形が整っておらず、スペースが大きく開けたアンストラクチャーな状態による打ち合いともいえる。

 そうなると、真価を発揮するのがヴィラのスピードのある攻撃陣。特に後半から2トップの1角として起用された高速WGタイプのレオン・ベイリーは、49'の得点シーンだけでなく、2つ目に添付した63'のシーンのように殊勲の働きを見せていた。
 1つ目の動画のかたちでスコアを1-2としたヴィラがペースを掴んだところで、両チーム65分前後で2ndスカッドへのメンバー交代が行われた。

Ⅲ.この試合で見えたユナイテッドへの
課題=期待感

1⃣試合中の修正はいかに…!

 個人的には「2ndスカッドだから後半押されたのはしょうがない」とは思っていなくて、上述したように1stスカッドが出ていた後半の67'まででも、ヴィラの激しいプレッシング、縦に速いダイナミックなフットボールに苦しめられ、確実にヴィラのペースであったと感じている。
 実際、リーグ戦でもこのように相手のHTでの修正、選手交代によって苦しめられる展開は想定できる。そうなったときに重要なのが、選手交代やそれに伴うシステム変更による「修正に対する修正」となる。逆に、ユナイテッドの試合前に組んだプランがハマらずに、後半に向けてHTでの修正が求められるケースもある。
 今回の試合では、PSMで選手の出場時間が決まっているため、それができないのは当たり前だが、このチームは完全体ではなく、チームとしての「修正力」の部分もPLで勝ち点をもぎ取るためには重要であるということは課題として浮き彫りとなった。
 ただ、この側面における期待感も見られたというのも事実で、それは1stスカッドと2ndスカッドでの守備時の配置が4-3-3から4-2-1-3とダブルボランチを置くものにシフトしていたことだ。

⑨ユナイテッドの1stスカッドの守備のかたち
⑩ユナイテッドの2ndスカッドの守備のかたち

 この試合では、ヴィラの4-2-2-2のようなビルトアップに対して⑨のようにユナイテッドは4-3-3でプレッシングを掛け、中盤はいつものマンツーマンではなくゾーン気味に対応していた。前半は試合がコントロールされたものだったので、そのプレッシングもうまくハマっていたが、徐々にヴィラの高速ペースに持ち込まれた後半はそのアンカー脇を起点にされるケースがトランジション局面を含めて増えていった。ただ、2ndスカッドでは守備時の配置がダブルボランチだったために、試合のペースは少しだけ落ち着いたものとなっていった。
 これが選手起用による単なる偶然なのか、それを想定した行われたものなのかは定かではないが、これが後者であれば、このチームの「修正力」の片鱗を見せたといえるかもしれない。

2⃣ひとこと

 ロスタイムのCKでの同点劇。正直、1stスカッドで戦った約65分間ぐらいでも引き分けが妥当な内容だったのかなと思います。今季初の引き分けという結果や後半のビルドアップの悲惨さに不安を感じた人も多くいるかもしれません。ファン・ハールユナイテッドがPSM絶好調だったという都市伝説もありますし。
 ただ、チームが本格的に動き出してから約1か月、4試合目ということを踏まえると、「プレー原則が設定された上での相手に応じたゲームプランの遂行」が毎試合見られるというのはかなりすごいことだと思っています。テンハグが修正下手という噂もありますが、この点は問題ないということをこの4試合の(相手に合わせた策が必要となる)ゲームプランの綿密さの中に見出せたのかなと。
 さらに、次のアトレティコ戦で合流する2人の新戦力含め、彼の創るサッカーを高める人材の獲得があること、試合の積み重ねでチームが向上することを考えると、このPSMが限界ではなく、まだまだ伸びしろ、ポテンシャルがあるチームといえます。
 僕はもう完全に彼を信じきっています(笑)信者レベルです。なので結果が出ない場合は、絶望すると思います。でもそれがサポーターだー!ということで、皆さんと一緒に彼らの旅を明るく見届けていきたいと思います!次のアトレティコ戦は最初の本番!では。

(全然関係ないですけど、ヴィラは選手も監督もこの試合にガチンコな感じがして、とてもワクワクしましたし、いい振る舞いを見せていたと思います!ジェラード体制初フルシーズン楽しみ!!)

タイトル画像の出典
https://www.manchestereveningnews.co.uk/sport/football/football-news/man-united-aston-villa-highlights-18925166

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