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島根の古本屋

アンデルセンの『絵のない絵本』の第一夜を読み終える。数秒の間を置いて長い溜息が漏れ出す。淡い絵の数々が浮かび上がっては消える。それはそれは美しい絵。


松江城と宍道湖に挟まれた細い通りにある古本屋、〈冬營舎〉に足を運ぶのは2度目。何かと足繁く通っているらしい母の紹介だ。店主の女性との会話が心地よい。

幸田文『きもの』
安岡章太郎『大世紀末サーカス』
大佛次郎『砂の上に』
辻邦生『小説への序章』
白洲正子『明恵上人』

辻邦生、安岡章太郎との出会いはこの場所だった。特に前者の『嵯峨野明月記』は私の大好きな作品のひとつである。幸田文の『みそっかす』を読むきっかけになったのも、元を辿れば後者の『歴史への感情旅行』だった。明恵上人に関しては、京都の〈高山寺〉で様々見聞きしていたので興味をそそられた。

翌日には出雲駅近くの〈句読点〉という古本屋に。冬營舎の店主との会話の中でご紹介いただいたお店だ。岡本太郎とバタイユ、レヴィ・ストロースの関係について話していた際のことだった。聞くところによると、そのお店の店主は岡本太郎が大好きで、購入不可の岡本太郎ブースが店内にあるらしい。

辻邦生『天草の雅歌』
辻邦生『廻廊にて』
坂口安吾『日本文化私観』
横尾忠則『なぜぼくはここにいるのか』

なるほど、物々しいほどの存在感を放つ棚がキャッシャー横に佇んでいた。棚の上には太陽の塔モニュメントを始めとしたグッズが置かれている。本が傷まぬようしているのだろう、透明のカーテンも据えられている。

そんな棚を尻目に上の4冊を持ち帰る。相変わらずの辻邦生。横尾忠則は少し前に訪れた、彼の名を冠した美術館での鑑賞体験が尾を引いている。記憶を参照しながら読み進めたい。

山陰の古本屋、京に溢れる古書店とはまた違った雰囲気だ。今回の出会いはどう展開されるのか、次に訪れる際には何を求めるのか。

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