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去年の今日。
一人娘の卒業式の日取りだった。未知のウイルス対策として、個別の卒業証書授与はなし、保護者の出席は1名のみと決められた。出席できない保護者はオンラインで式の様子を見守るようにというお知らせが届いた。

私は自宅でその様子を、固唾を飲んで見守っていた。皆同じ制服とマスク。娘はどこだろう。iPadの画面を凝視して、その姿を必死に探すが見つからない。おかしい、どこにいるんだろう。

「ママ、お水飲みたい」
階下で声がする。目が覚めたのか。水をやらないと。
そして、ようやく我に返った。

娘は出席日数不足により卒業が叶わず、3月末で学校を自主退学することが決まっているのだ。この場に出席しているわけがない。

キッチンに行き、グラスに水を注いで娘に渡すと、iPadの前に戻った。

画面は、卒業証書授与の代わりに、担任がクラスの生徒の名前を一人ずつ呼び、呼ばれた生徒が起立し返事しているところを映し出していた。
入学式のときと全く同じ演出。

名前を呼ばれると、その生徒の顔が一人ずつ画面に大写しになる。娘と長いこと仲良くしてくれたあの子。いつも優しかったあの子。娘を深く傷つけて追いつめたあの子。6年間の思い出が次々に浮かんでは消えていく。

そして本来なら娘の名前が呼ばれるべき場所。やはり、その名が呼ばれることはなかった。涙が止まらなかった。

今思い返すと、あのときの私はだいぶどうかしていたと思う。控えめに言って、普通の精神状態ではなかった。つらくなるに決まっているのだから、オンラインで見守る必要なんて全くなかったのに。
でも、式の様子は見られないと淡々と言った娘の代わりに、せめて私が見届けようと思ったのだ。あの子がどんな顔で卒業していったか。iPad越しに、せめてその顔を睨みつけてやろうと思ったのだ。全身全霊、恨みを込めて。電波を通して、届け、この怨念!!(こわい)

数日後、退学の手続きを済ませた。全ての制約から解き放たれた娘の周りでは、緩やかに穏やかに時間が流れた。ゆっくりのんびり、自分のペースで、進んだり戻ったりしながら少しずつ快復していき、そこから1年かけて、この春ついに一つの目標を達成した。そんな娘を誇りに思う。

こんなにもあたたかく、こんなにも幸せな気持ちで、1年後の今日を迎えることができるとは、思ってもみなかった。

今日。娘には留守番していてもらって、大好きなCreepy Nutsのライブに行く。娘が今のような状況になってから、これだけ長時間、私1人で外出するのは初めてのことだ。この日のために、有休を取ってくれた夫。年度末で忙しいのにわがまま言ってごめん。本当にありがとう。
いってきます🎶

****************

ここまで書き上げて、noteに下書き保存しておいた。当日の朝、これをアップしてから出かける支度を始めよう。帰ってきたら、私なりにレポを書いてみたいな…そんなことを考えていた。

深夜、ラジオをリアタイしながら、なんとなく喉に違和感があった。まさか、そんな馬鹿なことあるわけない。ヤクルトとポカリを飲んで仮眠した。目覚めたら全身の倦怠感がひどく、起き上がれなくなっていた。喉を触ると、明らかに熱をもって腫れている。テレビをリアタイしながら検温。いつもより1℃以上高い。37.5℃こそ超えていないが、微熱だ。

なんで。どうして。今日に限って。何ヶ月も前から楽しみにしていたのに。涙が溢れて止まらなかった。

一瞬、黙って行くこともできるのでは?という考えが頭をよぎった。平熱低めの私、微熱があっても会場入口の検温は余裕で突破できる。声は出さないし、座席は一席ずつ空いているし、飛沫さえ飛ばなければ、きっと大丈夫のはず。

ふと、どこからともなくRさんの声が聞こえてきた。
「俺らのお客さんはみんなルールを守れるいい人ばっかり。だからこんなご時世でも俺らはツアーで全国を回れる。ありがたい」
テレビでは松永さんが笑顔でじゃんけんをしている。忙しくて寝不足でくたくたで体力の限界のはずなのに。

大好きなお2人を絶対に裏切るわけにはいかない。私1人の身勝手な行動が、命をかけてライブしているお2人から、ライブを奪ってしまうことになりかねない。

参戦を見送ることに決めた。

****************

どうしてこんなことに。すっかり寝込んでしまいながら、うじうじ考えていた。
月曜日に、すっかり伸びきった真っ白い鬣を、少しでも見栄えよくしたくて、久しぶりに美容院に行ったのがいけなかったのか。その後、普段は行かないスーパーで買い出しをしたのがまずかったのか。あまりにも喉が渇いていて、手洗いを充分にしないまま、お茶を飲んでしまったせいかもしれない。
どれもそうかもしれないと思えてくる。でも、多分どれも違う。

人を呪わば穴二つ。あの日あの子に電波を通して送った怨念が、1年経って返ってきたのだ。あのときは、呪った分と同じだけ自分が呪われたって構わないと思っていた。あの子のせいで、あの子さえいなければ。そんな思いにずっととらわれていた。
あの日掘った穴に、そのぴったり1年後、ずぼっとはまりこんでしまったにすぎない。なにせ、私の全身全霊をかけた、醜悪な怨念だ。まともにくらって起き上がれるわけがない。
つまりは、自業自得だ。

いつまでも過ぎたことにこだわっているからいけないのだ。娘はもうとっくに、あのときのしんどかった思いを手放して、新しい世界に踏み出そうとしている。ねちっこい私は、このままでは近い将来必ず娘の足かせになってしまう。

娘よ、すまない。
風の時代、こんな醜悪な怨念はさっさと手放さなくちゃね。
いい加減、前を向いて歩き出そう。


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