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『ちはやぶる 百人一首恋物語』(時海結以)

忙しい先生のための作品紹介。第14弾は…

時海結以『ちはやぶる 百人一首恋物語』(講談社青い鳥文庫 2019年)
対応する教材    『百人一首』
ページ数      189ページ
原作・史実の忠実度 ★★☆☆☆
読みやすさ     ★★★★☆
図・絵の多さ    ★★★☆☆
レベル       ★★☆☆☆

作品内容

 『百人一首』のうち、身分が高すぎるお姫さまゆえに許されない悲恋から生まれた……と解釈されることのある3首の物語を描いた、小学上級〜中学向けの作品です。他の古典作品と筆者の想像を織り交ぜて語られる、百人一首にまつわる物語。以下の歌が詠まれるまでのラブストーリーが、易しい言葉遣いで表現されています。
・在原業平「ちはやぶる〜」
・藤原道雅「いまはただ〜」
・式子内親王「玉の緒よ~」
各話の後にある解説には、参考にした古典作品や、どの部分までが事実であるかが示されています。また、本編に描かれていない登場人物たちのその後についても、史実に作者の願望を交えて補足的に説明されています。

おすすめポイント「想像ふくらむ、歌人たちの悲恋」

 この本でテーマとされている身分の差による叶わぬ恋は、我々には馴染みのないものです。しかし、3話とも登場人物の会話が多く、地の文では繊細な心の動きが丁寧に描かれているため、そのシーンを思い浮かべて感情移入しやすいと思います。また、歌が詠まれたときだけではなく、相手側の物語や二人はその後どうなったのかという話もあり、詠み手の気持ちの答え合わせをしているような感覚です。

最後の「玉の緒よ〜」の話では、式子内親王と藤原定家が、練習という名目での歌のやりとりを通して心を通い合わせる様子が見られます。相手だけに伝わるような歌を贈るというのは大変に技術がいることでしょう。優れた歌人の彼らだからこそ生まれたロマンチックな物語です。二人のラブストーリーに続けて、その後定家が『百人一首』を選ぶところまでが触れられているため、一冊で『百人一首』自体の概要も知ることができます。

授業で使うとしたら

 本書の物語は、和歌そのものの解説より、和歌をめぐる作者たちの恋に主題が置かれています。そのため、和歌の解説として授業に用いるのは難しいかもしれません。しかし、『百人一首』に限らず古典の恋、特に身分違いの恋の雰囲気を知るのにはうってつけの本です。特に第一章では『伊勢物語』芥川の話も登場し(P48~66)、その解説として用いることもできます。和歌そのものより、古典の恋愛について、あるいは『伊勢物語』を学ぶときに補助資料として用いやすいかもしれません。

 本書は史実や古典作品が土台になっていますが、物語が歌の解釈のうちの一つであること、また作者の虚構が混在している点は注意が必要です。第一章は逃げ出す場面は『伊勢物語』第6段を、第二章は二人の関係性のみ『栄華物語』第31段を、第三章も二人の関係性は能『定家』などを元にしています。しかしその他の具体的なエピソードはすべて作者の虚構で作り上げられています。そこを踏まえた上で、イメージをつかむために用いるのがよいでしょう。

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