見出し画像

『吾輩も猫である』(森本哲郎)

忙しい先生のための作品紹介。第19弾は……

森本哲郎『吾輩も猫である』(2005 PHP研究所)
対応する教材    『吾輩は猫である』
ページ数      208
原作・史実の忠実度 ★★☆☆☆
読みやすさ     ★★★☆☆
図・絵の多さ    ★☆☆☆☆
レベル       ★☆☆☆☆

作品内容

 「吾輩も猫である。名前は小次郎という」


血統書付きの飼い猫である小次郎の目線から、主人の4匹の飼い猫と、主人を訪ねてくる客人たちの日常が語られます(登場する4匹の猫は、著者の飼い猫がモデルだそうです)。

 『吾輩は猫である』と同様、主人とその客人たちが繰り広げる軽快な雑学がてんこ盛りです。その内容は、荘子や杜牧といった文人や思想家から日本の文豪、近年の高齢化社会といった時事にまで多岐にわたります。小次郎もそれを分かっているようで、なかなかインテリな猫なのでしょう。

 猫どうしのやりとりも描かれます。猫としてのプライドを持っている小次郎と頓着しないで人間に甘える伊織、2匹の会話は特に微笑ましいものです。

おすすめポイント 吾輩「も」猫である。名前は小次郎。

 小次郎はインテリな猫である、と述べましたが、どうやら『吾輩は猫である』も知っているようです。小次郎は、ネズミを取ったことがない理由として、現代ではその必要がないことに加え「漱石の猫もネズミを仕留めたことがないことを恥じず、むしろ得意になっていた」と言っています。

 魅力的なのは猫だけではありません。主人の、以前は教授だったが今は物書きだか何だかをしているらしい、という部分や、読みもしない本をわんさと買っては積読にしているところなどは、原作の苦沙味先生を彷彿とさせます。

 また、作中では漱石の猫を「漱石の有名な、いや無名の猫」と茶化したり、馬耳東風を猫耳(びょうじ)に春風と言い換えたりと、言葉遊びがとても楽しい作品です。

 この本は、原作の“主人とその客人たちの博識で理屈っぽい会話を中心とした日常についての、飼い猫による観察日記”という体裁を引き継いでいます。原作の登場人物に直接触れている部分もあるため、『吾輩は猫である』とセットで読むとよりおもしろく読めることと思います。

 原作と違い、話題ごとに目次が設けられているため彼らの話がスッと頭に入ってきやすいことも特長です。

授業で使うとしたら

 現在では「吾輩は猫である」を授業で使うことは少ないかもしれません。しかし、猫が主人公である作品を扱うことで、一人称小説の作者と主人公を切り離す、というねらいは、本書でも達成できそうです。中学生などでは、むしろ『吾輩は猫である』よりも本書の方がわかりやすいかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?