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ヒトは皮膚呼吸をするのか:007からの都市伝説

九州歯科大学で「呼吸」について講義をしているとき「ヒトが皮膚呼吸していると思う人?」と尋ねると何人か手を挙げる。「おいおい、ないだろ~」って言う話(吉野賢一)

呼吸:生物が生存するために必要な物質を外界から取り入れ、不必要な物質を外界へ放出することが必要。この生体と外界とのガスのやり取りを呼吸という。呼吸には内呼吸と外呼吸がある。内呼吸(細胞呼吸)は、エネルギー産生のために細胞と体液(血液)の間で起こるガス交換のことをいう。普通は呼吸というと外呼吸を意味する。脊椎動物の(外)呼吸には、肺呼吸、皮膚呼吸、鰓(えら)呼吸などがある。

007(ダブル・オー・セブン):架空のスパイであるジェームズ・ボンドがもつコードネーム。「00」は殺しのライセンスを持つことを意味し、ボンド氏は任務中に殺人を犯しても罪には問われない。お仕事中のボンド氏の機嫌を損ねると命取りになる。

007 ゴールドフィンガー:007シリーズの第3作で、日本では1965年に公開された映画。ボンド氏が富豪のゴールドフィンガー氏のカードゲームでイカサマを妨害する。ボンド氏はイカサマを手伝っていたジルさんと親密になる。でも、ボンド氏はゴールドフィンガー氏の部下に襲われて気絶してしまう。ボンド氏が意識不明中、ジルさんは殺されてしまう。以下は略。

ジルさんのインパクト:ベットに横たわるジルさんの死体は、なんと全身が金色に輝いていた。この死体は強烈なインパクトを当時の人々に与えた。 ジルさんを演じたのはシャーリー・イートンという女優。ちなみにWikipediaでこの女優を検索すると、彼女の写真は「007ゴールドフィンガーの全身金色レプリカ人形」だった。「どんだけ~」っていう感じ。(本人の写真を使ってあげなよ~)

そして都市伝説へ:同作では、ジルさんの死因は「全身に金粉を塗られ皮膚呼吸ができなくなり窒息死」と説明されていた。Wikipediaの同作ストーリーにも「全身に金粉を塗られて窒息死する」と記載されている。これが間違いのもと、都市伝説のはじまり、はじまり~。

その他の都市伝説:「金粉や白粉(おしろい)を塗ったダンサーや歌舞伎役者が皮膚呼吸できずに苦しくなった」とか、「火傷をすると皮膚呼吸ができなくなって死んでしまう」などとささやかれることがある。前者は粗悪な金粉や白粉に含まれる鉛などによる中毒、後者は感染や体液損失が原因。また、化粧品の宣伝文句に「肌の皮膚呼吸を妨げません」「夜もお肌は呼吸しています」などと書かれているものを目にする。「こんな化粧品を買ったらだめですよ」って言いたい。

ヒトは皮膚呼吸していません:とはっきり言っておきます。呼吸器科のドクターから「お肌の調子どうですか?」と聞かれることも、プールの監視員から「長く入っていると窒息するから上がりなさい」と注意されることはありません。確かに、皮膚表面から多少のガス交換は行われます。しかし、それを呼吸とは呼びません。それは単なるガスの交換で、これを皮膚呼吸と言うんだったら地球上の生物はほとんど皮膚呼吸していることになります。呼吸とは「生存に必要なガスの交換」です。ヒトは皮膚で呼吸はしていません。Wikipediaの「皮膚呼吸」には「ヒトでは、皮膚呼吸は行っているがその割合は低い」と書かれていますが、訂正した方が良いと思っています。

その他の呼吸:哺乳類や鳥類はもちろん肺呼吸です。ミミズや両生類などが皮膚呼吸を行っています。魚類は鰓呼吸です。もちろん例外もありますし、複数の呼吸を行う動物もいます。ちなみにドジョウは鰓呼吸に加え、腸呼吸をします。水面で吸った空気を腸で蓄えて酸素を体内に取り入れることができます。そのガスの排出は「ドジョウのオナラ」と表現されています。

余談①:ヒトが皮膚呼吸をするかどうか、それは呼吸の定義によると考えます。定義が明確でないときは、私のように「ヒトは皮膚呼吸しない」と理解した方が良いと思います。患者から「皮膚呼吸の調子が悪くて苦しいです」って言われたら、皮膚科のドクターも困りますから。

余談②:昆虫は体表にある気門から空気を取り込む。取り込まれた空気は気管(気管小枝)を経由して体内に取り込まれる。これは気管系と呼ばれるが、何呼吸になるのだろうか?・・・虫の息?




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