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DX成功のための組織変革(下) 解決志向がDXを実現する

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DXの企画・戦略策定は解決志向アプローチが最適

組織の中でDXの企画や戦略策定を推進するには、「解決志向アプローチ」(Solution Focused Approach)が有効である。

解決志向アプローチを一言で言うと、「失敗原因をなくすことよりも、解決に向けた可能性を追求する考え方及びコミュニケーション方法」である。

多くの企業では、問題に焦点をあて、問題を無くすための解決策を講じる「問題志向アプローチ」が浸透している。問題志向アプローチは、既存のルールや枠組みを正とし、それから外れているものを直すことに焦点を当てる。このやり方は、ゴールが明確に定まっていることが前提なので、環境変化が少なく、安定した状況においてに有効である。

しかし、DXの企画や戦略策定を進める場合、既存のやり方や常識に囚われず、新たなアイディアを創発し、新たなゴールを設定することが求められる。また、変化が激しく不確実な環境下でDXを推進していくには、ゴールに向かって柔軟に舵取りを行う必要がある。よって問題を隅々まで捜し、潰していく「問題志向アプローチ」では柔軟性が無く、変化についていけない。問題探しをしている間に変化が起こり、定めたルールの前提が崩れたり、個々のメンバーの問題認識がずれてしまう。

こういう場合は、目指す姿、ゴール(大目標)を明確にしてから、逆算して考え、ゴールに近づくには何をすればよいか、そのためにはどんなリソースを活用すればよいかなど、解決像にフォーカスして考える「解決志向アプローチ」のほうが、変化に遅れず、ダイナミックに意思決定が行える。

以前の記事で解説した「仮説指向計画法」も、利益目標からスタートし、逆損益計算によって仮説を構築し、仮説の見直しを柔軟に行ったが、このやり方は解決志向アプローチの考え方と一致している。

世界的に有名な経営学者ピーター・ドラッカーの以下の名言も解決志向アプローチの基本哲学に通じる。まさに、この名言を実現するのが解決志向アプローチの目指すことと言ってよい。

真のリーダーシップとは、組織の強みを連鎖させ、弱みを取るにたりないものにすることである。“The task of leadership is to create an alignment of strengths, making the weaknesses irrelevant.” (Peter Drucker)

解決志向アプローチの特徴

解決志向アプローチは、「問題より解決像(ゴール)」、「短所より長所」、「過去より未来」、「部分より全体」にフォーカスしたコミュニケーションが特徴である。

「どういう姿が解決像か?」、「それを実現するために、どんなリソースを活用できるか?」、「今、既にできていることはないか?」といった建設的な質問を多用し、組織やチームで、その問いの答えを検討する。

このコミュニケーション手法は、システム思考法仮説指向計画法に基づいて実施するワークショップを活性化すると共に、組織としての自己効力感を高める。

また、解決志向アプローチは人間関係を壊さない安全なコミュニケーション方法である点も長所である。

問題志向アプローチは、既存の制度や仕組みを改革する場合、従来のやり方を否定するため、その責任者を犯人扱いにしたり、改革に反対する人を抵抗勢力扱いしたりする空気が漂ってしまう。

また、得てして大組織では、上からの指示により議論もせず、根拠のない大目標を掲げてしまい、組織全体が疲弊してしまう。

根拠のない大目標は、達成できない確率が高く、達成できなかった場合、社員は自信を失い、ネガティブな空気が漂う。また、一部の経営層からの反対意見によりプロジェクトが頓挫したり、中途半端に撤退する懸念もある。一見、ありふれた問題のように思うかもしれないが、業務改革に失敗している企業は、こうした人・組織の心理的な配慮が欠落している場合が多い。

一方、解決志向アプローチでは、問題、短所にフォーカスせず、解決像、可能性、長所にフォーカスするため、社員の気持ちが楽になり、変革に対して前向きに検討する空気が生まれる。また、責任追及されることを恐れて、あれこれ、できない言い訳を準備する無駄も省くことができる。
解決志向ほ質問により成功イメージが鮮明になり、目標達成の根拠も明確になる。

解決志向アプローチでは、まず、理想的未来像を描き、理想的未来に繋がる既存のリソース(解決に役立つ能力、可能性)を探求し、そのリソースを徹底活用することを検討する。それは自社が持っているリソースだけでなく、活用できる得意先、仕入れ先、提携先などステークホルダーのリソースまで広げることができる。

そして大目標とベクトルが同じ小目標をたて、小さな成功体験を積み重ね、それを突破口にして、ドミノ倒しのように大きな成功へと導く。夢をしっかりと持ちながら、それに繋がる目先の目標を着実に達成していくことが大きな成功への近道という考え方だ。

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DXにおいても大きな成功を収めるには、長期目標(夢)と短期目標を明確にし、関係者間で共有、共感することが大切である。

長期目標を忘れず、しっかり持ち続け、それに繋がる短期目標を設定し、着実に達成していく。そして成功体験を関係者にシェアすることにより、DX成功の確信を拡散していくのだ。

解決志向アプローチは、理解するだけでは役に立たない。これを実践できるよう、ひとりひとりがスキルを磨くと共に、組織全体に浸透させる必要がある。

解決志向アプローチの良いところは、プロセスや体系に縛られず、会話の質問から気軽に始められる点である。

例えば会議中に、以下のような質問を取り入れてみる。

「あなたが理想とする最高の展開はどのようなものですか?思いつくことを何でも話してください。」、「それから?」「それから?」

「当社のこの■■(リソース)に興味を持つ会社はありますか。その会社に提案したとき、あなたに何と答えるでしょうか?」

「当社が進む方向を変えても良いとしたら、どのような選択肢があるでしょうか?」

「現状とゴールの中間まで進んだとします。今と違っていることは何ですか?」

「そもそも根本的なところでは何を目指しているのだと思いますか?」

「今起こっていることに関する満足度は何%ですか?何が変わればそれが上がりますか?」

このように解決志向の質問は、具体的なゴール像、ゴール像から現実に逆算して今何ができるか、既に得られているリソースやチャンスは何か、それを活用して実行できる解決策は何か?など建設的な思考を促す。

解決志向アプローチは、カウンセリング心理療法から発展した手法で、心理カウンセリング、コーチング、組織活性化など様々な目的で利用されている。

本書は、さわりだけでだが、興味がある方は、以下の書籍をおすすめする。臨床心理士や産業カウンセラーなどの専門家ではなく、ビジネスパーソンを対象にわかりやすく解説している。

解決志向への意識変革が必要

既存事業に従事してきた社員やIT部門の社員は、問題志向アプローチに慣れているので、DX実現の推進役を任せるなら意識変革が必要だ。

既存事業の場合、売るもの、作るもの、仕入れるものなど事業内容に大きな変化はないので、前年度を上回る業績を目指すには、商品・サービスや業務の課題を見つけ、改善することが重要だ。殆どの企業のIT部門も、基幹システムの保守・運用など、主に守りのITマネジメントを担っているため、不具合などの負を探し、解消していくことが求められる。このため「問題志向アプローチ」の考え方やコミュニケーション方法が沁みついてしまう。

問題志向から解決志向へ頭を転換するには訓練が必要だ。この訓練をせずに、DXの推進役を任せてはプロジェクトは発展せず、収束していくリスクがある。

これを変えていくには、やはりリーダシップが必要だ。

強い志を持ち、解決志向アプローチの考え方を社員が理解するようわかりやすく説明し、組織運営に取り入れ、実践の中で社員のスキルを粘り強く育成していくことが求められる。

今後、筆者のnoteでも具体的な実践方法について解説するので乞うご期待を!


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