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DX成功のための組織変革(上)変革のエネルギーを生む

組織学習を促進し、組織能力を高める

これまでDXに有効な手法として「システム思考法」「仮説指向計画法」を解説した。いずれも体系的であり、手順やルールが明確なので、何をすべきか迷いがなくなるだろう。

しかし、どれだけ優れた手法を導入しても、その目的や背景にある考え方が正しく理解されなければ、組織に浸透せず、形骸化していく。

「システム思考法」と「仮説指向計画法」も同様である。このふたつの手法の共通目的は「組織学習を促進し、組織能力を高めること」である。手順や図表化の知識を習得するだけではなく、チャレンジを推奨し、失敗を許容し、その経験から得た知見を積極的にシェアするマインドと風土の醸成が欠かせない。

既存の評価制度に縛られずDXに貢献する人材を正当に評価する

DXのための情報共有、人材育成、組織文化の醸成に貢献した人材を正当に評価することも大切だ。

近年、成果主義の評価制度が浸透しており、売上などの数字を期間業績評価に反映する企業が増えている。しかし、新規事業が軌道に乗るには数年かかる。DXの場合、最低、4~5年はかかると言われている。

それにも関わらず、既存事業と同じ評価基準でバッサリ評価する愚かな経営者が見受けられる。こんなことをすれば、誰も成功確率の低い、新しい取り組みにチャレンジしたいとは思わないだろう。また、そのような会社がノウハウのある人材を募集しても、採用は難しいだろう。経営が定型業務になってはいけない。大企業から中間管理職を経営幹部として迎えるときは要注意である。

リストラを進める多くの日本企業に採用された成果主義は、目に見える結果に対する社員の意識を高める効果はあるものの、社員同士を生き残り競争に晒すという弊害が大きかった。このため、社員は部門や個人の成績にこだわり、部門を超えた社員同士での情報共有が進まず、セクショナリズムに陥り、会社へのコミットメントが低下してしまった。その結果、全社レベルの変革が進まず、国際的にも競争力も失ったのではないだろうか。

社員の心を引き締めるためには危機意識は必要だ。しかし、それは会社の存亡にかかわる危機意識であって、個人の存亡にかかわる危機意識であってはならない。社内での競争と対立により、チャレンジする社員の生存欲求が満たされない状態を作っては、DXという会社の未来を背負った取り組みにチャレンジするマインドは醸成されず、組織の士気を高めることは難しい。

トップマネジメントの決意表明が変革へのエネルギーを生む

トップマネジメントは、会社の存亡がDXの実現にかかっているという危機意識を共有しつつ、先頭に立ってチャレンジする人材に対して、しっかりと支えていくことを約束しなければならない。

既存事業に従事する社員からみると、支出が先行する新規事業は、お荷物のように見え、それに関わる社員に対して冷たい態度を取りがちである。これも成果主義がもたらしたセクショナリズムが原因である。

トップマネジメントは、新規事業へのチャレンジが必要と一旦判断したならば、社内の偏見や対立が払拭されるように、新規事業の意義とトップマネジメントとしての決意を全社員に表明し、新規事業にチャレンジする社員を最後まで守るべきだ。その姿勢により、社員全員が運命共同体であるという意識が芽生え、社員同士の助け合いを促し、変革へのエネルギーに変わる。

「とは言っても不確実な事業をいつまでも続ける訳にはいかない。」と悩んでいるなら、「仮説指向計画法」を学んでほしい。成功仮説、撤退ルールを予め検討し、合意しておけば、経営者の決断に対して誰もノーと言わない。

解決志向アプローチの浸透がDX実現につながる

次回はDXのための組織変革を推進する「解決志向アプローチ」というコミュニケーション手法について解説する。


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