会いにいける大臣。教育インタビュー2(インクルーシブ教育・障害児教育編)
台湾のデジタル大臣オードリータン(唐鳳)さんへの教育に関するインタビューです。長くなってしまうので、
1.STEAM教育・プログラミング教育編
2.インクルーシブ教育・障害児教育編
3.ジェンダー・人権に関する教育編
の3つに分かれております。
(トップ画像はオードリーさんがいるオフィスのエントランス。)
1(STEAM教育・プログラミング教育編)はこちら。
武:引き続き、教育について質問させてください。
日本では子どもの人口は減少しつつありますが、一方で発達障害を含む「サポートが必要な子ども」の割合が上昇しているという背景もあります。そこで、次の議題としてはインクルーシブ教育について伺いたいです。
唐鳳さん:減少している出生率に関係なく、先天性の障害があるこどもが増えているということですね。障害のある子どもが生まれることが増えているということでしょうか。
武:そうとは言い切れないと考えています。自閉スペクトラム症やADHDを含む発達障害は脳機能の違いによる社会での生きづらさです。
唐鳳さん:一部は遺伝的でありますが社会的でもありますね。
武:おっしゃるとおりです。増加の主な理由として、「自閉スペクトラム症とはなにか」「ADHDとはどういった特性なのか」の認知が広がり、親御さんたちが診察や診断を受けようとすることが増えたことが挙げられると考えています。
唐鳳さん:認知が広がったことによる増加ですね。
武:はい。10年前と比べると圧倒的に認知が広がりました。
唐鳳さん:より多くの人が生まれたというわけではないということですね。予防接種のような話ですね。
武:何が起こっているのか人々が理解できるようになってきたからかもしれません。以前は「自分の子どもに障害があるかもしれない」ということを親が受け入れることは非常に難しいことでしたが、今では5−6%が該当するなどと言われるようになったことも含め、受け入れやすくなってきていると言えます。
唐鳳さん:社会的認知が高くなっている。私もそれは感じています。
武:バイアスが以前に比べて少しずつ低くなっているので
唐鳳さん:見かける機会も認識する機会も、増えていく。
武:はい。だからこそだと思っています。
唐鳳さん:台湾でも同じことが起きています。私が10代になるくらいまでは街中で車椅子に乗っている人や白杖を持って歩く視覚障害者はあまりいませんでした。それは人々が健康だったからではなく、環境が適していなかったから公共の場へのアクセスが限られていたためです。台北市では人権問題も含めてユニバーサルデザインが広く採用されたこともあり、日常的に出会います。
武:認知が増え、関わりが増えてきたからこそ、これからは、更に教育に注力をしていかなければならないとかんがえています。特に価値形成がなされていく小学校くらいから、必要な人数の教師を用意し、当たり前に障害者と健常者が同じ学び舎にいられる環境をつくるべきだと考えています。しかしながら、子どもの数が減ったため、行政は教育の予算を削ってしまおうとしてしまいます。
唐鳳さん:あなた方の目指しているインクルーシブ教育はフルインクルージョン(完全なインクルージョン)と特別教育、どちらの形でしょうか。
フルインクルージョンでは、支援技術と人員を駆使して、発達障害を含めた脳機能の多様な人々が他の子ども達と異なる認知能力で学習をできるようにする形になります。特別教育では、同等の条件をもつ人々が効果的な学習方法を一緒にしていきます。
武:私たちの会社はフルインクルージョンを目指していると言えます。
唐鳳さん:それはいいですね。難しい方の道筋です。笑
武:LITALICOジュニアは自閉症を含めた発達が気になる子供たちに焦点を当てているため、彼らに個別最適化していった1対1や少人数制でのプログラムがあります。彼らが学校で授業参加したり、幼稚園でお友達と遊べるようにトレーニングをしていくので、インクルーシブ教育の実現のための個別支援をしているというイメージです。
唐鳳さん:なるほど。Social Enterprise Insightというので見たことがあります。これは社会起業家精神に焦点を当てた最大のメディアだと思うのですが、私が彼らのカンファレンスに出席し、インクルージョンの事例としてLITALICOを出していたのを思い出しました。
https://en.seinsights.asia/about/
台湾にはたくさんの社会起業家がいます。前述のSEI共同設立者の1人でもあるサニー・リンは人々がお互いを支え合い、障害のない社会を実現していくというあなた達の考えを本当に好きだといっていました。
唐鳳さん:LITALICOは台湾の少なくとも社会起業家の間で人気があります。それは貴方のチームの周りにいいアドボケイト(理念・ビジョンを推奨する人)がいるからです。私は彼らの説明によってLITALICOのビジョンを理解しました。
武:私たちの支援体制は東京を含めた首都圏では機能しはじめていますが、地方ではまだまだ課題があります。だからこそ、私たちは学校や地域の施設などと連携を取っていこうとしています。
唐鳳さん:彼らの場所をインクルーシブにしていくことをサポートするという形ですね。
武:そうです。そして、台湾について伺いたいのですが、台湾の教育では今何が起きているのか、そしてオードリーさんが想像する未来のインクルーシブの形について、そしてそのためにどんなことを考えているのか、教えてもらいたいです。
唐鳳さん:はい。まず、この施設はco-designされた場所です。ダウン症の子達が取り組んだ視覚デザインを実際に見てもらうことができます。
武:g0vサミットでもおっしゃってましたね。
唐鳳さん:ダウン症の人たちの作品を世に出していくことは「ダウン症」のイメージを変えていくことにつながると考えています。
文字通り「疾患がある」「障害がある」人だと言ってしまえば、それは彼らとの相互の関係性は制限されてしまいます。それは関わり方自体をも制御してしまう。一方で、私たちがどう翻訳するかによっては関わり方やイメージは変わりうるということでもありますよね。例えば彼らを「楽しくて、純粋な子どもたち」とすれば、イメージもそちらに進んでいきます。実際に彼らは元気で純粋で朗かな子達です。ひょうきんで、無邪気で、抜けているところもあります。あと、ナイーブでもありますね。笑
「楽しげで純真な子ども達」これ表現がリブランディングにもなっていきますね。20年間CAREUS財団はこのような形で体系的に置き換えていくという取り組みをしています。新しい翻訳、ブランディング、新しいロゴをもって、「ダウン症」を体系的に再導入してきました。
武:アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を排除していくためですか?
唐鳳さん:疾患に対するメタファーを排除し、代わりに彼らがいかに私たちよりも「楽しげでクリエイティブ(joyful and creative)」だということを伝えています。彼らはより楽観的でもあり、優れたクリエイターや芸術家でもあります。これは事実です。そして、この空間の共同クリエイターでもあり、そういった形での活躍によって社会参画が可能でもあります。
自閉スペクトラム症も同じです。「障害者」ではなく、スターファミリーの一員であるという形でのブランド変更があります。「異なる惑星の人々」だというような新しいブランディングです。異なる惑星の人々は異なる文化を持っている。その惑星には大気条件があり、人と人との距離をより尊重する必要があると言われています。笑
彼らが動転している時には、放っておくことができます。そばにいるよと見せることもできますが、彼らに干渉することはできません。地球人の求めるような安心感は望んでいません。
このブランド変更によって私たちは創造力を発揮できるようになります。これは脳機能や神経の多様性に対してこれまで以上に的確なアイデアを促し、フルインクルーシブな教育を実現します。台湾に関してで言うと、私たちは今まさにこの段階に来ていると思います。
武:ここから、なんですね。
唐鳳さん:そうです。まだ完全ではありません。新しいカリキュラムの多くは、分離(特別教育)から統合(フルインクルージョン)までを進めてきているLITALICOの取り組みのような形を目指す人たちにもリソースは開放されています。まだこの段階ですので、東京よりは劣っているかもしれません。
ですが、間違いなくこの方向に向かっています。
武:そうなんですね。一方で、インクルーシブ教育を例え実現できたとしても、やっぱり学校にはいきたくない。というケースもあると思うのですが、
唐鳳さん:そうですね。それが、私たちが個別教育プログラムというアメリカのシステムを活用している理由です。IEPの取得は法律で義務付けられています。
武:なるほど。ホームスクーリングに切り替えたりすることもできますか?
唐鳳さん:はい。台湾の義務教育課程のうち、1割までがカリキュラムを完全に無視して、実験的な教育システムを受けることができます。彼らはIEP(個別教育計画)に基づいて、教育グループと連携したり、慣習的な方法を取らない機関を活用したりもできます。彼らはその年齢の子ども達と同等の権利を教授します。また公立学校が提供するリソースを使うこともできます。ホームスクーリングで自信をつけて、学校に戻るというケースもあったりします。ホームスクーリング一貫とは限らず、行ったり来たりすることもあるので、こういった仕組みは重要です。
例えば、本格的なソフトウェアの品質保証(quality assurance)に取り組みたい!と思ったりしたら、公教育以外の環境を望むでしょう。そしてまた学校に戻ってみたくなったりもするかもしれません。不自由や遅延なく行ったり来たりすることができるようにすることは非常に重要です。学期ごとにどれくらい個別化した時間を持つのかを選択できます。台湾での全く同じ権利と目的を持つことができ、高等教育まで実験的教育システムを持っているというこの現行法はアジアでも最も進んでいると言えるでしょう。また、法律としては実験的な大学をも許可しています。新しいのでまだ誰もやってはいないのですが。笑
唐鳳さん:近いうちにそれを目にすることができると思います。笑
(3:ジェンダー・人権に関する教育編へ つづく)
シビックテックのCode for Japanで働きながら、小児発達領域の大学院生をしながら、たまにデザインチームを組んで遊んでいます。いただいたサポートは研究や開発の費用に充てさせていただきます。