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読書感想|ひとりでカラカサさしてゆく


◇あらすじ

大晦日の夜、ホテルに集まった八十歳過ぎの三人の男女。彼らは酒を飲んで共に過ごした過去を懐かしみ、そして一緒に猟銃で命を絶った。三人にいったい何があったのか――。妻でも、子どもでも、親友でも、理解できないことはある。唐突な死をきっかけに絡み合う、残された者たちの日常。人生におけるいくつもの喪失、いくつもの終焉を描く物語。

江國香織 『ひとりでカラカサさしてゆく』 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)


◇感想

八十代の男女が大晦日に三人で猟銃での自死。
おそらく普通の読者は「なぜ」を求めて読了を目指すのだろうけど、
かなりの江國香織ファンのわたしはわかっていた!
明確な「なぜ」の答えがないことを。
これはミステリー小説ではないのだ。

三人が生前または亡くなったあとに及ぼした、
残された者たちへの影響。
それがこの物語の七割を占めている。

三人の他にざっと数えても17人以上の人物が登場する。
これがまたこんがらがる、こんがらがる…
(相関図を書いてなんとか読み進めることができた!)


雑な相関図


それぞれがそれぞれのやり方で
死を受け入れようとする。
悲しみに暮れる者、生前を懐かしむ者、怒る者…
わたしは父を亡くしていることもあってか
翠(亡くなった完爾の娘)に共感した。
何をしていてもふと父の不在を感じ、涙がでる。
懐かしむ気持ちも、怒りたくなる気持ちもわかる。
大切な人の死。
そこから生まれる悲しみのエネルギーって
本当に発散方法が難しい。

それでも残された者たちは日々そうやって、
悲しみと向き合わなければならない。


大晦日の夜、
「一緒に三人で」ではなく
「同じ場所でそれぞれがそれぞれの理由で」
自死を選んだ。
それこそが❝ひとりでカラカサさしてゆく❞なのだ。

ただ、
最期を共にするのが家族ではなく
自分の人生の中で一番輝いていた時を共にした仲間
であったというのは
三人の一致した価値観であり、
ちょっと羨ましいなと感じた。
(わたしは今のところ家族、できれば多くの孫に囲まれて去りたい)


◇最後に

江國香織さんの美しく品のある文章、
この人いいな、と思わせる登場人物の人柄、
今回もかなり楽しませていただきました。
ゆっくりと流れる時間がより一層リアルに感じられて、
本当にだいすきな作家さんです。

今のところ「落下する夕方」「ホリ・ーガーデン」が
トップを争っています。
(わたしの中の江國香織作品ランキング)

ひとりでカラカサさしてゆくと合わせて、
是非読んでみてください。


最後まで読んでいただきありがとうございましたっ。

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