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ひきこもりの心理と心理支援

私は臨床心理士としてひきこもりのご家族の支援をしています。
「ひきこもり支援は社会福祉士、ソーシャルワーカーさんの範疇ではないんだろうか?」と感じたのが1年半前。

今は違います。
ひきこもり支援こそ、『こころ』を整える心理士と『環境』を整えるソーシャルワーカーは車の両輪。
どちらも揃うことで、車は前へと進んでいく。そう感じています。

はじめてひきこもりのご家族に出会ったのは、今からもう15年近く前。
当時、市役所の「こども・家庭」を担う部署で相談員をしていた私。
窓口に現われた白髪の女性。
「どうされましたか?」と尋ねると「息子のことで」と答える。
「息子さんはおいくつですか?」

こども家庭庁もまだない当時、18歳までのお子さんを育てているご家族の相談に乗るのが『家庭児童相談』のお仕事。
私にはどうにもできないけれども、どうしても何とかしたい!!
彼女を県の保健所の相談窓口まで一緒に連れて行ってあげた帰り道。
トボトボ独りで。。。

「自分には何もできない。伴走することすらできないし、話しを聴くことすら。。。何も動けない。彼女は目の前にいるのに。何もしてあげれなかった」無力な自分に悔しくて。

今思う。
そんな私の感じた「気持ち」こそが、ひきこもりの当事者を支えるご家族のお「気持ち」そのものだったんだと。

しかも、ご家族なら尚更。
そしてこれは、当事者もまた。尚更。

なぜ人はひきこもりたくなるのでしょうか?

わたしは中学時代、腎臓の病気になり長く入院しその後も自宅療養をしていました。
寝たきりで過ごしていたので、和式トイレにかがんで用を足すこともできなくなってしまいました。
そもそも身体を起こして1日座っていることすら、そんな体力もありませんでした。
ステロイドの服薬のせいで免疫力が落ち、すぐにウィルスに罹患してしまう可能性もあり健康面でも安全ではありませんでした。
副作用で顔はパンパンに腫れていました。
友達に会わない遠くのスーパーならと買い物について行っても「何あの子の顔」と指を指されて笑われたこともありました。

家の外には、安心できる場なんてありません。
ましてや人の沢山いる学校なんてもっての他。

でも当時の私は弱音を吐きませんでした。
涙だって流しません。
自分の本当の「苦しいよ」「悲しいよ」に気付けば、あっという間に溢れ出した渦で家族を困らせてしまいそうで。一生懸命蓋をして。
でも無理に蓋をした感情はイライラや怒りになって現われます。
家族に当たり散らして。悲しそうな顔をされて。
沢山迷惑をかけているのに。そんな態度をとってしまった自分が不甲斐なく。。。
そんな時には、なるべく顔を合わさないように、自分の部屋にこもり気分を紛らわせようとラジオをずっと聴いていた。

家の外には安心感も安全感もなく。
自分の中にもいつ溢れ出すかわからないドロドロがあって。
家の中でも、自分のドロドロから家族を傷つけやしないかと不安になりながら。何とか日々をやり過ごしていた中学時代。

そんな私を支えてくれたのは、おじいちゃんやおばあちゃんの明るさとユーモア。おじいちゃんはよく鼻歌を歌っていましたし、おばあちゃんは私のパンパンな顔すらネタにして。

じいちゃんは私を「カッコロ」と呼んでいました。猫は「ニャンコロ」、犬は「ワンコロ」
じいちゃんは私の頭も犬や猫を撫でるようによく撫でてくれました。

私はよく理由もなく元気が出ない時、何も言わずにテレビを観ているばあちゃんの背中にそっとくっついて座っていました。
ばあちゃんも何も言いません。
背中から伝わってくるばあちゃんの暖かさ。
「そのままでいいんだよ」と私を包み込んでくれるその温もり。

安心・安全が感じられなくなった時に一番大切なことは『安心して居られる場にただ居ること』焦らずじんわりそこで充電満タンに。

一緒に生活している家族に「どう思われているんだろう」「迷惑がられていないだろうか」「自分を産んだことを後悔しているんじゃないか」「育て方を間違えたと落ち込ませているのではないか」
そんな私のモヤモヤした不確かな『勘ぐり』も、「もぉどうでもいいわ」と思わせてくれる『安心して居られる場にただ居ること』

ひきこもりに限らず、人は自分自身の不確かな『勘ぐり』にも『こころ』がおびやかされてしまいます。誰にとってもおうちが『安心・安全な場』になるのに大切なのが、言葉のやり取り。家族だからこそ、きちんと「あなたは大切よ」のメッセージを言葉や態度で示すこと。

わたし達ひとりひとりが誰もが安心できる社会を創っていく為に、ひきこもりという状態について、一緒に学び考えてみませんか?
これは『わたし』も『あなた』も。『子ども』も『大人』も住みやすい社会を創ることに繋がっています。
当事者さん達が立ち止まりひきこもってくれた勇気。
みんなで考えるきっかけに☆


土居もスタッフとして皆様のご来場をお待ちしております。


※午後は広島県臨床心理士会、広島県公認心理師協会の会員、および大学院生を対象としてひきこもりの心理支援についての研修会(「ひきこもりサポートフォーラム2023」)を予定しています。フォーラムへのお問い合わせはhijimon@hsccp.jp

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