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あなたがそばにいれば #24

※官能表現だいぶあり。苦手な方はご遠慮ください。

Natsuki

彼から逃れようと身体をよじったけれど、構わず背後から抱き締めてくる。
傷が痛むのか小さく呻き声を上げた。

「ね、本当に今はやめて…?」

それを無視して彼は私のシャツをたくし上げ、背中に唇を寄せた。

彼の唇は柔らかで、舌は滑らかで、熱い吐息と共に触れられるだけで背中から全身が痺れてしまう。

背後から彼の両手が私の乳房を摑む。授乳時期だからまだ張っていて痛みを感じる。

それをわかってか、そのうち右手がお腹を伝って下着の中に入り、私の熟れかけた部分に触れる。
舌は私の首筋と背中を行き来し、それで私の身体は完全に熟してしまった。
そして耳元で囁く。

「いなくなっていいわけないだろう…?」
「ずるいよ…遼太郎さん…」
「離さないから、絶対に」

私の熟した部分を彼は指先でなぞった。

下着を剥ぎ取り、後ろから蕩けた部分に熱くなった昂りを押し当ててきた。
そして内側を味わうかのように、ゆっくりと奥深くまで入ってくる。

堪えようとしても声が漏れる。

一度腰を引き、再びゆっくりと突き刺す。
彼の吐息が耳元を掠めた

「顔、見たい。こっち向いて」

繋がったまま私の身体の向きを変える。
私が何か言おうとすると、彼は熱い吐息を交えて絡め取ってしまう。

40歳を過ぎた彼の身体は、弾けるような瑞々しさは当然ない。
けれど年齢の割には引き締まっていて、少し疲れを感じるところも成熟された魅力があった。

ただ今は、少しやつれた。
左上半身の包帯が痛々しい。

「遼太郎さん…痩せた…それに今はその怪我じゃ…」
「見苦しい身体だよな…」
「そんなことない…。それを言ったら子供も2人産んだ私の身体は、もっと魅力がないよ」
「若いから魅力的なんじゃない。愛しているから魅力があるんだ。だから俺は夏希以外の女性には魅力を感じない」

そう言って私の両脚を抱え込み、ゆっくりと抽挿を繰り返しながら優しく、強く舐ってくる。
彼が感じている声が、喉の奥から低く漏れる。

「子供2人産んだ身体は魅力がないって? どうしてそんなことが言えるんだよ…こんなに…俺を締め付けて…」

彼の質感には未だに圧倒される。
それはまるで麻薬のようで、私の身体も脳も彼に支配される。

はぐらかされてると思っても、全身が言うことをきかなくなっている。

最も奥深くまで到達したとき、一度動きを止めて、私の目をじっと覗き込む。

「前に隆次に訊かれたんだ。兄ちゃんは何が幸せなのかって。俺は夏希といる時、と答えた。そしたらあいつ、じゃあベッドの上が最高なんだな、って言いやがってさ」
「そんなこと…話してるの…?」
「こうやってずっとひとつになって、夏希の中に残っていたい。子供なんかじゃなくて、俺自身が残れたらいいのに」

そして口づけをすると腰の動きを速めた。
切ない吐息が彼の口から小さく漏れる。

「壊したい。夏希のこと、めちゃくちゃに壊したい。いい?」

彼の瞳の縁に朱が差し、これまでにない程の狂気を感じて背筋が震えた。
哀しみなのか、怒りなのか。どちらとも取れる瞳だった。
けれど、その狂気な彼が最も美しいと思った。

「俺がいないと生きていけなくしたい。身体も、心も」
「もう…とっくに…なってるってば…」

私の左脚を持ち上げ、もっと深く突き刺す。
そうなると私はもうひとたまりもない。

それでも彼は動きを止めない。私は何度も叫んでしまう。
ただ彼も怪我の痛みのせいか、時折顔をしかめる。

「傷…痛むんだよね…?」

訊いても黙って痛みに耐えている彼の上に跨がった。
ただ、より深く入ってくるのを恐れて及び腰になると、彼は構わず私の腰を押さえつけた。

「…! だめだよ…!」

言っても無駄だとわかっているけれど、彼はそれすらも愉しみ、その陶酔した表情すら恐ろしいほどに美しい。

「何がだめなの? 言ってごらん」
「…それは…」
「だめじゃないだろ? 今夜はどんなに泣き叫んでもやめないから」

そう言うと彼の目が鋭く私を射抜いた。

あぁ、なんて綺麗な朱なんだろう。
人の目の縁って、こんな風に朱が差すことがあるなんて、初めて知った。
美しすぎて、おかしくなりそう。

そして私の腰を押さえたまま突き上げてくる。
脳の髄まで突き抜かれるようだった。

私は天を仰ぎながら叫んだ。背中を大きく逸らし、涙が溢れる。
痛みと快楽、そして彼の中の狂気。
頭の中が混乱を通り越して真っ白になる。

やがて彼も小さく呻いて、私の奥深くに熱く脈打ち放っていく。

傷を気にして身体を離そうとしたけれど、すぐに腕を取られ、抱き締められた。

「このままずっと残っていたい…」
「…」

私はしばらく言葉を発することが出来なかった。
涙で顔はぐしゃぐしゃになっていたし、上がった息がいつまでも収まらない。

彼はさっきまでの激しい熱が引くと、怪我の痛みか顔を歪ませた。すぐに無理して笑みを浮かべようとする。

怪我をしていない右側に身体を寄せると小さな静寂が訪れた。

そして私はふと数日前に起こった不思議な出来事を思い出した。
そういった他愛もない話をすることすら、最近出来なかったことも思った。

彼の胸に頬を載せたままその出来事を話した。

「あのね、この前あなたによく似た男の子が現れて、私に話しかけて来たの…」

しばらく黙って聞いていた彼は、不意に言った。

「俺がいなくなったら、どうする?」
「え…どうして急にそんなこと言うの?」

彼は微笑むと体を入れ替え、真上から私を覗き込む。

「答えて、夏希」
「いなくなるって…どういうこと…?」
「ある日目が覚めたら消えていなくなっていた、みたいな」
「変なこと言わないで。さっき離さない、離れられないって言ってたばかりなのに。私には離さないなんて言っておいて遼太郎さんがいなくなるってひどいよ」

私は声も身体も震えた。
本当にどこかへ行こうとしているのではないかと思ったから。

あまりにも恐ろしい言葉に、また不安が襲う。

「私の望みは歳を取っても、子供たちが私たちの元から巣立って、私たちがおじいちゃんおばあちゃんになってもずっと一緒にいること。あなたと一緒にずっと生きていきたいの。死ぬこととかいなくなること前提なんて嫌よ。私はあなたと一緒に生きて行くの」

彼の瞳が揺れた。

「遼太郎さん、最近よくないこと考えてるよね…? 眠れなくて強い薬になったことも、私知ってるよ。苦しみすぎてよくないこと考えてる…」
「…」
「私はあなたと一緒に行きていく運命なの。だから私は、あなたが抱えるどんな運命も受け入れると決めているの。あなたを一生愛すると誓ってから…何年経っても誓いは変わらないの。だから…」

私は彼の頭を抱え込んで言った。

「お願いだから苦しまないで。私に全部吐き出して。私は全て受け入れると決めているのだから。それでも一生あなたのそばにいると決めているのだから」

彼の熱い吐息が私の胸元にかかる。
彼は小さく、震える声で呟く。

「俺は夏希を傷つけたくない…」

「傷ついたりしない。大丈夫だから。言って。何を抱えているの? あなたの苦しみを私にも分けて。お願い」

「俺はどうなってもいい。でも夏希だけは…」

彼が泣いている。

涙が私の胸を濡らしていった。



#25へつづく

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