【連載小説】あなたに出逢いたかった #50 最終話
ドアを開けて聴こえてきたのはショパンだった。
懐かしい旋律に思わず立ち止まり目を閉じる。
梨沙の瞼の裏に浮かんだのは、幼い頃住んでいたマンションのリビング。4階角部屋、南向きで日当たりが良かった。
ソファで絵を描いていると、その隣で遼太郎が左手で梨沙を抱え、右手で頬杖を付いてピアノ曲に耳を傾けていた。あの時遼太郎が着ていた白いセーターのふんわりとした感触も、匂いも息遣いも、どこか寂しげだった遠い目も、全てはっきりと思い出せる。
今ならその目に何が映っていたのかも、わかる。