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【小説】桃の女②

https://note.com/malingyanben/n/nbb98fe0bfded

恋愛はしたいかも、とは思う。彼氏じゃなくていいけど。誰かに恋したいかもしれない。
今までに何人か付き合った人はいる。高校一年から大学一年まで付き合った響、その後付き合った他数人だ。
男の多くが持つ性質が昔から嫌いだった。その性質を高校生までは言語化できなかったが、今はできる。
生々しさだ。初めてペニスを見た時に、わかった。
19歳の頃だった。響のだ。響はどんなことがあっても取り乱さず、優しい言葉に変換できる人だった。
無害な彼の隣は、数年の間、私が最も落ち着く場所だった。私たちはたくさんたくさん話をした。ほとんど私が話していたのだが、彼の混沌のない静かな内的世界から生まれて育った言葉たちが外に出て私に届く時、彼のことが好きだと感じた。
背と鼻が高く、汗を全くかかない響に性器がついていることは、高校時代はあまり意識したことがなく、彼に顔があり、胴体があり、手足があるように、当たり前にそれも私の大好きな「響」だと思っていた。
しかし二人とも上京して大学生になり、響が私の一人暮らしの家に泊まるようになって三回目の夜。そういう空気になった。
彼は近くのコンビニに避妊具を買いに行った。その間、私は好きな人と広がりのある新しいことをできるのを、緊張しながらも楽しみに待った。
鍵を開ける音がして、響が「ただいま」と言って部屋に入ってくる。白くて小さなビニール袋は、とても軽そうだ。
「おかえり。あった?」
「あったよ。多分これでいいと思う」
響は0・01と書かれた箱を取り出した。
彼が手洗いや着替えをしている間、その箱をじっと見た。今までの人生の中で一番近くで見るその箱は、文字が多く、私の知らない色々なことを説明してくれているようだった。
「熱心に読んでるね。何て書いてあるの?」
響が洗面所から戻ってきて話しかける。
「なんか、うすいよー、とか気持ちいいよー、とか。私どうやって付けるかとかあんまりわかんないんだよね。響わかる?」
「自信はないけどまあ、それなりに」
響は少し小さな声で、ビニール袋をゴミ箱に捨てながら言う。
動画とかを見たのだろうか。それとも友達の間で話したのだろうか。またはそれ以外のところから知ったのだろうか。響とセックスは私と同様に離れた距離にあると思っていたので、なんだか意外だった。知っておいてくれた方が私としてももちろんありがたいので、別に良いのだが。
ふーん、そうか、もしかしたら響は私よりもいろいろ知っているのかもしれない。
響と私はキスをする。いつもより長めのキスをする。響は私の両手を取り、ゆっくりとベッドに押し倒す。甘やかな世界を開くためのアクションだった。ベッドの上で、響の下でするキスは、今までよりも深く、唇を通じて響が私に入り込んでくる感じがした。もっともっと響を欲しくなり、背中に手を回した。
セックスってきっとすばらしいものだ。


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