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遅れてきた北野武映画ファンかも〜映画『首』

いやぁ、面白かった!
これまで観たことない、最高の時代劇だった!

時代劇という言葉にはステレオタイプなイメージがあるので、この映画をそう呼んでしまうのも違うような気がするけれど。

同じ時代を描いているNHK大河ドラマ『どうする家康』とは天と地。
そもそも比較するのも失礼な話だけど、まぁどちらが天でどちらが地かは一目瞭然。

僕はコメディアンとしてのビートたけしは好きではなかった。
大阪の吉本新喜劇としゃべくり漫才で育ったので、東京弁で毒舌を吐くスタイルが性に合わなかったし、被り物をして悪ふざけばっかりやっているひょうきん族も(明石家さんまが一緒に出ていたとしても)全く観ていなかった。

そんなだったので、もちろん映画監督北野武のファンでもなかった。
『その男、凶暴につき』は公開後、しばらく経ってから観たけれど好みではなかった。
血と暴力、その世界観あまりタイプではなかったから敬遠していたと言ってもいい。
なので、それ以降の旧作もほとんど観ていない。
それでも『アウトレイジ』は観たし、とても面白かった。

しかし、この映画は予告編を見た時から、何故だか「これは観なくちゃ!」と思っていた。
『その男、凶暴につき』が1989年。
まだ20代半ばだった僕には色んな意味でキツかったのかもしれない。
それから30年以上経って、僕も北野武映画が描く世界観を受け入れられるようになっていたのかもしれない。
『アウトレイジ』が面白かったと思えたのもその証拠だろう。

そして、「これは観なくちゃ!」と思った最大の理由が、加瀬亮の織田信長!のワンシーンだった。
織田信長の尾張弁もあまりドラマで観たことがなかったし。
(最初は三河弁だと思っていたが、後であれは尾張弁だと知った。いやいやその違い、分かりませんって笑)

実際、映画本編でも、そのイッちゃってる狂いっぷりは予告編の何十倍で、
とにかく加瀬亮のぶっ飛び具合がたまらないポイントの1つだった。

北野武(ビートたけし?俳優としての時はどっちだ?)の豊臣秀吉は流石にどうだろう?と思ったが、御本人も出演するのが北野武作品みたいなので仕方ないか。

とにかく観たことない描きっぷりとしては、至るところにあって、
戦(いくさ)のシーンもそうだし、合戦シーンも迫力満点。

いつもの北野武映画と言ってしまえばその通りなんだろうが、首が飛びまくって、血が流れまくる、タランティーノ映画かよ!と言いたくなるような、残虐さも吹っ飛ぶような吹っ切れた演出。

そして、武士達が汚い。
確かによく考えれば、これまでの時代劇で出てくるようにこざっぱりと小綺麗な武士たちばかりだったはずがない。
ましてやこの時代、秀吉にならって百姓から志願した兵たちも多くいた訳で、それはもう乞食と見分けがつかないくらい汚かったはず。
それがちゃんと描かれていた。

そして、当時の武士の世界といえば男色。
今回も、信長と蘭丸の関係ももちろんきっちりと描かれていたし、
武士同士の関係も友情というよりははっきり言って恋愛感情、男色繋がり。
まさにホモソーシャルな世界で成り立っていた。
西洋における同性愛は禁忌という価値観とは真逆だった、当時の武士の世界がタブー抜きでテーマの中心になっていたくらいだった。

そして、そんな「武士」達の庶民から見れば一風変わった価値観の数々を、百姓上がりの秀吉を中心に据えることで、
「おかしな価値観」だと描いていて、題名にもなっている「首」もその1つ。

敵を倒したという確認も「首」を取ってきて首検分をしてはじめて成立する訳だし、
武士が最後に切腹をするというのは、それはそれで立場を尊重した死に方だし、介錯人が「首」を落とすことで苦しまないようにすることも礼儀の1つ。
劇中でも確か光秀のセリフだったような気がするが「武士の本分」として首にこだわるようなシーンがあった。

それほど武士にとって「首」は価値のある大事なものなのだが、百姓上がりの秀吉にはそんなくだらない価値観には目もくれず
「死んだかどうか判ればよいんであって首なんてどうでもいい」
と言い切ってしまう。

ある意味、武士の形式張った価値観、つまり権威を嘲笑っているのもテーマの1つだったのではないだろうか。
そういう意味では、武士を粗野に描いていたのも然るべき。
織田信長を尾張弁で怒鳴りちらすように描いていたのも、美化しないということだろうか。
対局にあるかもと思い出したのが、これもNHK大河ドラマだが1996年の『秀吉』
竹中直人が豊臣秀吉を演じていたが、その時の織田信長役が渡哲也だった。
あの信長はそれこそ冷徹で縮み上がるくらい恐ろしかったが、それでもかなり美化されていたように、今から思えば感じる。
最後の本能寺で白装束(寝巻き)で炎に包まれる最後のシーンは今でも覚えているが。

いやぁ、北野武映画のファンになりそうな一本でした、映画『首』
最高だったなぁ。

<了>





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