『先輩との昼飯は決まって』
「けっきょくこの春はベースアップなしだってな、よそはみんな給料上がっていくのにウチだけ取り残されてる気分だよなまったく、お前なんとかしてくれよ」
先輩との昼飯は決まって
「第二課の犬吠埼主任だけどさ、あいつなんて俺より後輩のくせにいつのまにか昇給しやがってさ、けっきょく胡麻摺るのがうまいだけなんだよ」
悪口と
「いやはっきりいっておまえはまだまだ足りないと思うよ、この春で2年目だろ?俺がそれくらいの頃は、先輩方を出し抜いてでも実績上げてやろうっていう気概が」
説教と
「まぁあと3年経ったところで、お前がいまの俺の位置にいるとはとても思えないけど、あ、そうだ俺家買うことにしたんだよね、そんなにでかくないけど、建ったらお前も呼んでやるよ」
自慢話
もうこの4月で僕も
2年目になるから
次の新人君にこの相手役は
任せたいところ
「あ、新人?来ないよ今年は、お前が引き続きいちばん下っ端な」
っていうことは
ナンとか自分でこの状態を
抜けださないと
だめってことか
「つーか何?お前もしかして俺とこうやって昼飯食うの嫌なわけ?あ、すいませんおかわり」
こういうところだけ鋭いんだよ
図星を突かれてしまった
「そうか、悪かったよ、振り返ってみれば俺の話いっつも悪口と説教と自慢だもんな、これからはちょっと控えるよ」
え先輩
自分で気づいて反省してる?
「だからこれからもよろしく頼むよ新人、いや2年目君!あ、お前はおかわりいいの?腹いっぱい?いやもっと食えよぉもしかしてこれもハラスメント的な?いや無理ならいいんだけど」
なんだか拍子抜けしちゃって
僕はぽかーんとしてた
おかわりいらないのかって
先輩が強く勧めるから
けっこう満腹だけど
せっかくなんでいただきますって
「うん食っとけ、ここのナンめちゃくちゃうまいよな、もちろんカレールウ自体もしぬほどうまいけど」
悪口と説教と自慢がめんどうなのも
もちろんだったんだけど
先輩との昼飯がほぼ毎日
インドカレーっていうのが
ちょっと引っかかってるんだよね
いや
インドカレーは好きだし
悪くないんだけど
まいにちはさすがにちょっと
ね
(あとがき)
定食屋かなにかだと思い込んだでしょ?