『蕎麦屋で』
世間的には割とニッチな
狭い業界を専門とする広告代理店で
私は営業の仕事をしている
ある日
いわゆる接待というやつで
A社の社長さんと一席設けていた
もちろん酒は飲む
ただし酔い潰れるようなことは
営業職として
あってはならない
粗相が許されないのは当然のこと
とくにその日はハシゴで
競合のB社とも接待があった
A社長いきつけの蕎麦屋の座敷
業界内ではグルメかつ上戸で有名
人づきあいも天下一品
ついつい私としたことが
情けないことに
飲まされ
酔わされてしまった
「なに?次はB社さんと会うの?」
はっと気づいたときには遅かった
「だったらもう呼んじゃいなよB社長」
業界内でもいちもく置かれるA社長には
同業者でも逆らえない
けっきょくその晩は
AもBも弊社も
入り乱れてのどんちゃん騒ぎ
領収書を見てすっころんだのは
ウチの経理部
数日あって
同じように
A社長おなじみの蕎麦屋で
「どうせ今日はC社さんとアトがあるとか言うんだろ?」
ドンピシャだった
挙句
C社長さんをこちらの蕎麦屋に
お呼びすることになったというわけ
ただ先日との違いは
C社長
酒やつまみどころか
蕎麦茶にすら手を付けない
A社長は言う
「Cさんねえ、あぁた真面目でならんよ」
居心地が悪そうに
C社長が答える
「あいすみません…下戸は下戸で…なおかつ蕎麦アレルギーでして…」
そういう時代なんですよ
と
私は広告代理店の立場から
A社長に申し上げておいた
いやほんとうに
そういう時代なんですよ
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(あとがき)
私の愛する落語の世界では『時そば』をはじめとして、蕎麦というのはポピュラーな存在です。
また幕末の池田屋事件に代表されるように、蕎麦屋が舞台となって繰り広げられる史実もあるようです。
そんななか、令和の時代に生きる自分としては、蕎麦アレルギーのひとが当時いなかったかどうかが心配になるというわけで。
まぁ着想はそこからではなく結果論なんですけどね。
それと。
トップ画像は偶然にも、フォローいただいているイトカズさんのものを拝借することになりました。
書いたあと「蕎麦」と打ったらいちばんよかったので。ありがとうございます。お借りします。
ひーふーみーよーいつむーななやあ…いまなんどきだい?