見出し画像

『僕は食卓で楽しそうに』


小さい頃から

家族で食卓を囲むのが

苦手だった


父と

母と

姉と


アレルギーのあった姉のこともあって

あまり外食はしないほうで

出来あいの惣菜も控えられていたように思う


母が作ってくれた毎日の料理は

とてもおいしかった


僕が苦手だったのは

そういったことではなくて


ひとつの卓を囲んで

家族が食事をとるという空間に

耐え切れなかったわけで


これまで幾度となく


学校の成績のこと

部活のこと

進路のこと

恋愛のことまで


他の家はどうなのか知らない

とにかく僕は

苦手だった


かといって

大きな反抗心を持つ性格でもなかった僕は

幼少期から青年期に至るほとんどの機会を

耐え忍んだ


いまとなっては

他界した両親ともう食卓を囲む機会もない

かといって

あの頃の自分を悔やむこともとくにない


あるとき


めったに連絡をよこさない姉から

電話がかかってきた


僕は仕事中だったこともあり

その晩に折り返した


姉夫婦が新居を建てたから

遊びに来いという旨だった


おかしいな

結婚してから

変わったのかな

いや

まさか


きっと僕が遊びにいけば

姉の手料理が振る舞われる

義兄と

その子供たちと

食卓を囲むことになる


状況は当時よりもっと酷いはず

想像しただけでも寒気がする


仕事の都合がつかないからと

断りをいれた


これまで幾度となく


学校の成績のこと

部活のこと

進路のこと

恋愛のことまで


僕は食卓で楽しそうに

家族に相談をし

報告をした


ところが一度たりとも

肯定も否定もなく

ろくな返事すらしてもらえない


僕が話す声をのぞいて

小さな咀嚼音と

食器がぶつかる音だけが

リビングに鳴り響いていた


父は野球中継

母はドラマ

姉は音楽番組

それぞれ自分のテレビに

イヤフォンをつないで
















この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,418件