『憂い深さも手伝って』

しとしとと雨が落ちる

春の雨は花びらを散らすから

心細さがいっそう募る

駅のロータリーで待ち合わせ

約束の時間から

もうすぐ1時間が過ぎようとしている

彼女は来ない

電話もつながらないし

メッセージも届かない

事故にでも遭ったのかな

そんな心配が頭をよぎる

はじめて彼女の家に

遊びにいく

駅まで迎えに来てもらって

ちょっとお花見がてらに

スイーツでもテイクアウトして

散歩しようかなんて

もうそんなことより

心配ばかりが募って

住所をあらかじめ

きいておけばよかった

そこの交番に届けようか

相手にされないよな

メッセージが来た

「ごめんつい寝ちゃって！急いで迎えに行くね」

安心した

こういうところも

かわいいんだよな

雨が降ってるから気をつけてね

といった旨を返し

また暫く待つことにする

駅前から延びる桜並木は

雨空でも映えていて美しい

きっと彼女の自宅も

この先にあるんだろうなと

勝手に想像してみる

彼女からまた

メッセージが届く

「お時間です。ご利用ありがとうございました」

うん

なかなか悪くなかった

八分咲きの桜を濡らす雨の

憂い深さも手伝って

レンタル彼女ハイパーリーズナブルコース

待ち合わせるけど

けっきょく会えない

待ち合わせ気分だけが味わえる

カネのない自分みたいな人間に

ぴったりのコース

リピート必至だな

せっかく初めて来た駅だし

ラーメンでも食べて帰ることにしよう

カネはないけど