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『贋作』


「コレ贋作ですよ」


ずいぶんはっきりとモノを言う鑑定士だ


「花びらのタッチなどあきらかに」


私は少々腹が立った


「あと何よりサインが…」


もうお引き取り願いたい旨を伝えて


思えば祖父の言葉からして怪しかった


丁半博打のカタにと

親友から譲り受けたらしい


絵画なんて持っていても

保存に手間はかかるし

泥棒にでもあったらかなわない


そう思って

祖父からこの絵を受け継いだ父が逝き

そのタイミングで売り払おうとした所存


贋作とあれば

もうゴミに出すしかない


「よろしければ無料で処分しますが」


もう帰ったと思った鑑定士が

振り向けば佇んでいた


なんせ額縁まで含めてこの絵

縦横それぞれ1m以上ある

贋作のくせに無駄にでかいやつで


「なんせ粗大ゴミ扱いですから」


つまり普通に捨てようとすると

費用がかかるという話


あぁどうせ二束三文ならば

もっていけ泥棒という気になり

私は鑑定士にその大作(の偽物)を委ねた


--


しばらくののち

偶然目にしたネットニュースに驚愕した


例の鑑定士に委ねたあの絵画が

オークションでとんでもない値が付き

落札されたというから


--


ある昼下がり

普段とは少し違ったコースを

私は散歩していた


あぁこんなところに小学校があるのか

子供たちの朗らかさを

この老体に少し分けてもらいたい

などと思いながら目を細めていると


校舎の玄関口にひときわ目立つ

立派な絵画が掲げられている


なんと驚いたことに

私があの鑑定士に委ねた絵画ではないか


--


美術に疎い私はすっかりと困惑し

知り合いを辿って辿ってようやく

とある美術館の学芸員の方へ

問い合わせることに成功した

もちろんあの絵画について


訊けば

生涯に何百という作品を遺した画家の

その画風とはただ一つ異なる作風ゆえ

果たして真作というものが存在するのか

画壇でも百余年以上議論が続き

真偽を知るものがいないという

すなわちこれまで世に出回っているその絵画は

すべてが贋作と言われる

いわくつきの作品だそうで


あぁそれだったら

高く売れるとか

そういう問題じゃなくて

なんだかリビングにでも

適当に飾っとけばよかったなと

思う私だった


煮え切らないって

こういうことだ


割り切れないって

こういうことだ








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