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『日曜日の夜だというのに』


日曜日の夜だというのに

業務用の携帯電話が鳴った

知らない番号からだ


もしかして客先の方かも


面倒とは思いつつも

渋々とした気持ちを抑えて


「もしもし」

「もしもし、あ、山田さん?」

「ええ山田でございます」

「ああっとね、私、稲岡、稲岡です」

「稲岡様」

「違う違うお客さんじゃないって」

「はい」

「明日から、営業三課を担当する稲岡」


そういえば

体調を崩して休職に入った課長の代わりに

明日から新しい方が来ると

そう聞いていた


「あ、よろしくお願いします」

「頼むね」

「丁寧に事前の挨拶をいただきまして」

「そうじゃないんだよ山田さん」

「はぁ…」

「朝のスピーチ」

「スピーチ?」

「明日初日だから、やるでしょう私」

「まぁ…あるかと」

「一緒に考えてよぉ」


とんでもねぇのが来たな


「自由でよろしいのでは…?」

「いやいやいやいやいや」


誰も聞いちゃいませんよという言葉が

のど元まで出かけたけど

それはグっと飲みこんで


「何かネットなどでお調べに」

「無難だとつまんないじゃーん」

「いえ、とくには…」

「個性の時代だって言われてるのに」


マジで先が思いやられる

これからずっと

この調子なのだろうか


「あの、それでは私が…」

「考えてくれるの?」

「ではなく」

「なにそれ!」

「いやいや課長」

「頼むよぉ」

「私が明日は合いの手を必ず入れて…」

「それってヤラセじゃない?」


どの口が言うのか


「そんなことありませんよ」

「みんなに嫌われたくないからさぁ」


私には嫌われてもいいのか


「では課長そういうことで」

「うん…」

「だいじょうぶですから」

「良かった!山田さんは電話に出てくれて」


私が一人目じゃないんだ


「もういちど他の人にも掛けてみるよ!」






翌朝

営業三課の面々は

新入社員の一人を除いて

新課長からの電話に

付き合わされたこと


そんな話で

盛り上がった


ていうか私が最後だったのかよ

それはそれでどうなのかな
















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