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『文豪の待つ迷路で』


入場料を支払うと

チケットの代わりに

白檀でつくられた栞が手渡された


最初のドアを開ける

いきなり二又に分かれている


深く考えずに左へ進路を取る


しばらく道に沿うと

二十世紀フランス文学のあの巨匠が

藁半紙で綴じられた小冊子を

私に差し出してきた


彼はとうに

没しているはず

ところが幽霊ではなく

そっくりさんでもない

ましてやロボットでもない


手渡された小冊子には

案ずることなく先へ進めとの旨が

記されている


活字の余白に

サインを貰い

栞を挟んで

先を急ぐ


また次の二又に差し掛かった

これまた深く考えることなく


今度は右に進路を取ってみた


その先から火の手が見える

木製のこの迷路が

みるみる燃えて

焦げて

焼け落ちていく


引き返そうにも

煙で意識は朦朧とし


片手に携えた

うっすらと香る白檀の栞が

絶命の前の

最後の悦びだった


迷路は全体に火が回り

来客も

折々で待ち構える文豪たちも


右へ左へ

あるいはその場に留まって


ほとんど皆

焼けてしまったというから










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