『「あの子、昔は綺麗だったのよねぇ」』
A子とB子は同期
同じ部署になったことこそないけど
常に隣の部署で
比較され続けてきた
どちらも才色兼備
多少性格に難はあったものの
かつてはオフィスにおいても
もてはやされた
そんな時代も流れて
とはいえふたりは
いまでもライバル同士
確固たるオツボネの座に
どちらも君臨している
「あの子、昔は綺麗だったのよねぇ」
A子とB子
双方揃ってこれが口癖
A子はB子を評して
またその逆も
--
「昔は綺麗だったからなんなんだよ」
「聞かされるほうの身にもなれよ」
「もう飽き飽きなんだよな」
A子にこきつかわれている
若手の男性社員は
同じくB子の使いっぱしりの
同期に愚痴をこぼした
ふたりはなんとか
オツボネの例のセリフを
有効利用できないかと思案
あるとき男性社員は
再生エネルギーに関する
ドキュメンタリー番組を観た
これだ!
さっそく男性社員は同期を誘い
科学研究所に駆け込んだ
門前払いされるものと思いきや
精鋭集う最先端の研究所でも
目から鱗
コロンブスのたまご
オツボネの嫌味節
だったようで
「あの子、昔は綺麗だったのよねぇ」
この言葉には世界を変えるほどの
とんでもないパワーが秘められているとの
研究成果が発表された
もちろんひと言ひと言には
そこまでの威力はない
しかし塵も積もれば
--
「あの子、昔は綺麗だったのよねぇ」
いま男性社員ふたりは
それぞれのオツボネに
この台詞を少しでも多く吐かせようと
日夜懸命に煽っている
小型のレコーダーから集められた
「あの子、昔は綺麗だったのよねぇ」は
圧縮され研究所に送られて
それから
核爆弾の数十倍の威力ともいわれる
恐ろしい兵器の材料として
蓄積されているというから
やはりこの世の中は
穏やかではなさそうだ