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『散骨』


大学の試験期間だったから

地元から遠く離れている俺は

通夜にも葬式にも

駆けつけることはできなくて


夜道の横断歩道

赤信号を無視して進入してきた

大型トラックにはねられて

親友のKは

即死だったときく


俺はひとりアパートで

ヤツを悼んだ


しばらくふさぎ込んだけど

大学の仲間が励ましてくれて


試験も終わったから

かわるがわる

俺のアパートにも来て

夜通し飲んだり

バカ話をしたり


悲しみはすぐには癒えないけど

なんとかやりすごしていた




小包が届いた


親友Kのお母さんからだ


伝票の品名には

「骨」


いやまさか


ごそごそと開梱してみたら

品名のとおり

砕けたお骨が入っていて


ううん…


いやぁ…


そうきたかぁ…


数日考えたのちに

俺はほど近い河原に行って

そうっとKを散骨した


さらさらっと流れていって


手のひらに残った灰も

パンパンとやって

それから拝んで




この行動が正しいか

あまり自信がなかったので


大学仲間の信頼できる連中に

ことの顛末を話したら


そりゃちょっと酷いなって

一様に口を揃えて言うわけ


そうだよな

いくら親友でも

骨を送ってくるなんてな


同調してもらえて

救われたと思ったら

そうではなくて


川に散骨するなんて

俺のほうが酷いよと

そういうことらしい


せっかく送ってくれたんだから

枕元にでも置いて寝たらと

みんなそんなことを言う


他人事だから

そんなことが言えるんだよ


相談なんてしなければ良かった


そう思いつつ

良心が咎めた俺は

安酒だけど

日本酒を買って

お清めがわりに

川に流したんだ


そしたらそれまで

存在に気づいていなかったけど

河原の住人が寄ってきて


日本酒を流してしまうなんて

もったいないことするなって

そう咎められたわけ




やっぱり今度の週末に

バイトを休んで

地元に帰って

Kの家で線香をあげよう


散骨のことは

もちろん内緒だ












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