『思い出古地図』
工房は東側に小さな窓がひとつあるだけで
それも半地下になっており
通りの向かいの家を越えてからでないと
朝日が差し込むことはなくて
つまりはほとんど
ランプを灯さないことには
作業などできなかったと思う
地図職人だった爺さんが
父や僕に仕事を継がなかったのは
まともに食っていける仕事じゃないからって
聞かされている
たしかに僕の生きているこの時代に
建築家や土木作業者の測量した情報を寄せ集めて
地図に起こすなんていう仕事は
まったくもって需…
いや
面白いんじゃないかな
「思い出古地図」
測量されたデータなんていらないんだ
依頼者の思い出話を聞いて
そのストーリーに沿って地図を起こす
印象の深い土地や
忘れがたいスポットには
独自の地図記号を落とし込んで
エピソードを書き添えてもよいと思う
うん
そんな仕事って
需要ないですかね
まともに食えない?
あぁそうですかそうですよねわかりましたよ