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asanopoet
『お父さんとお母さんは責任を感じて』
ハチノさんというおじさんがいて
わたしの小さい頃は
毎日のようにうちへ来て
晩御飯を食べていたりして
わたしはお酌をさせられたり
肩叩きをさせられたり
良い気分ではないけど
特段悪い気分でもなかった
それでも今考えたら
なんだか奇妙で
両親がともに
ハチノさんに対して常に
へこへことしていることも
すごく不思議だった
ハチノさんはたまに酔っ払って
お母さんに暴言を吐いたり
お父さんに手を挙げたり
そんなこともあったな
それでも相変わらず
両親はへこへこ
どうしてハチノさんは
あんなにエラそうで
どうしてハチノさんは
そもそもしょっちゅう
ウチに来るのって
両親に訊ねてみたけど
話を濁されるだけで
答えは得られなかった
わたしが都会へ就職して
それからしばらく経って
ハチノさんが亡くなったという
そんな報せをきいて
行く義理もないから
お葬式のために帰郷なんて
するわけもないんだけど
ちょうどお母さんと
そのとき電話で話したの
そしたらようやく
ハチノさんと我が家の
妙な関係について
教えてくれたわけ
ハチノさんは
当時から身寄りがなくて
寂しかったというのは
ほんの建前で
実はもうちょっと
込み入っていたらしくて
ハチノさんは
ウチのお父さんとは
草野球の仲間だったんだって
あるときお父さんが打ったボールが
ハチノさんの股間に当たって
勃起不全つまり
EDになっちゃったんだって
ボールが直接的な原因だとは
お医者さんは
断言してないそうなんだけど
お父さんとお母さんは責任を感じて
身寄りのないハチノさんに
せめてものお詫びとして
家庭の温かみを
捧げていたということ
どうせEDだから
わたしに対しても
悪いことはしないだろうとかいう
謎の安心感もあったんだって
何それ
まぁでもとにかく
わたしは身も心も女子だから
その痛みはわからないけど
とっても痛かったんだろうなって
そう思います