『柵』

岬の灯台広場を囲う鉄の柵が

何者かによって撤去されてしまった

潮風で経年劣化は早く

頻繁なメンテナンスが

必要とされている鉄柵

昼間は絶景スポットとして

その断崖絶壁の向こうに広がる

大海原を目当てに

観光客が押し寄せる場所にあって

「ふらふらっと歩いて、落ちたかったんです」

ひとりのおんなが

器物破損と窃盗の容疑で捕まった

おんなは供述のとおり

自死を望んでいて

そして謎の美学から

”邪魔な”鉄柵を

撤去するに及んだという

奇異な犯罪として

全国のニュースになった

するとこの手の犯罪にありがちな

模倣犯が多発

全国各地の高所や難所に備えられた

柵や囲いというものが

不法に破壊されたり

撤去されたり

ところで潤ったのは

その鉄くずを引き取る廃材業者

ブツの出どころなどは

かまうことがなくて

商売上手な業者に至っては

鉄柵の用いたオブジェなどを作っては

「あの〇〇岬で撤去された鉄くず利用！」

などと銘打って

新たな観光名所として

地域を賑わせたというから

皮肉なもので

ところで

事の発端となった

ふらふらっと落ちて

あのヨへ逝きたかったおんなは

執行猶予で浮世へ放たれて

いまも手ごろな

ふらふらスポットを

探しているとか

いないとか

ふらふらおんなの

目撃説はネット上で

後を絶たない

あいもかわらず

どさくさに紛れて

ふらふらおんなフラペチーノとか

そんな便乗商品まで

売り出される始末

ちなみに目撃説は

その大半が

偽物だっていう話

※ふらふらおんなフラペチーノって言いたかっただけ、ではないんです断じて誓います