『「最っ低」』
洋翔を連れて、”親子三人でみずいらずの休日”を過ごすのは半年ぶりだ。
月にいちど俺は息子に会うことになっているんだが、海外出張が続いていたりなんかして結果、季節がふたつも通り過ぎた。
あと少しで4年生になるのでモノへの興味がだんだん大人びてくる。どっちに似たのかしらないが博物館へ連れていけという。恐竜の化石が見たいそうだ。
別れたのは痴話げんかからではない。洋翔には気の毒だが俺も元妻もワーカホリックで、働いていることが何よりの悦び。
10年とちょっと前のあの晩、同業者組合の宴席でたまたま意気投合してそして、周囲の目も気にしつつ自分たちもまんざらでない気持ちになり、成行きで俺たちは結ばれた。
でも俺も彼女も仕事を取った。悩み抜き、話し合いを重ねた結果。
親権は妻側に委ねた。旧い考えかも知れないが、けっきょく子供は母親の元が良いだろうという俺の提案。実際俺も父より母のほうに甘えていたこともあり。
元妻はそれを快諾。ただ彼女も仕事一本槍なものだから、平日は習い事を遅い時間まで詰め込んで、”親子らしいふれあい”などはしていないようだ。
「〇〇市役所の建て替え、おたくも噛むんだろ?」
「そうねー、アタシ直接は絡んでないけど、たぶん入札はするよ」
「ここんとこウチは御社に連敗してるから」
「そりゃそうでしょ、負けないよ」
「どうも駆け引きが下手なんだよなウチの連中は」
「まるで自分だけは上手いみたいな」
「上手いよ、わかるだろ」
「なんで?」
「息子を、委ねた」
「最っ低」
博物館のチケットカウンターで、つい大人2枚と言ってしまった俺。
そしてそのことにまったく疑問を抱かなかった元妻。
さすがに情けない申し訳ないと思っている矢先、俺のスマホにメッセージが届いた。
「パパどこにいるの?僕まだ駅前なんだけど…」
そういえば、俺と元妻の後ろを歩いていたはずの洋翔がいない。
駅前まで引き返さないと。
きっと洋翔は、たくましいオトコになるよ。
そう信じたい。いいや、信じている。