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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2020年9月の記事一覧

『悪い癖』

『悪い癖』

スーパーで万引きをするおとな

とはいえ

実際には見たことがない

それはテレビのなかでよく見る光景

おそらく

自分が実際に遭遇しても

声はかけない

通報もしない

でも気になるから

遠巻きには見ている

現実では

きっとそうなる

テレビに映っている風景は

バックヤードで店長の取り調べを受けているところ

「家族にはいわないで、警察は呼ばないで」

盗んだものは

洗剤とパン

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『申し訳ないよ』

『申し訳ないよ』

上野の森に

つきあって間もない

二週間ばかりの彼女を

連れて行った

絵が好きって言うもんだからさ

フランドル絵画の企画展

そのチケットを

(前売りで100円引きになる!)

(金券ショップでさらに100円安い!)

(残念ながらもう学生じゃない!)

2枚買って

張り切って

JR上野駅の

美術館口で待ち合わせたんだ

小雨が降っていた

似合うよね

上野の森にはそんな風景が

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『発注書』

『発注書』

月末の忙しい時期

うちの部もそうだけど

俺自身も個人のノルマ達成あやうしってときに

とんでもない発注が舞い込んできたんだよね

臨月の妻とは最近あまり話せていない

のんびり一緒に過ごしたのはいつだったろうか

思い出せないくらいに

しょうがない

安月給だ

働くしかない

これから生まれてくる子のためにも

妻には言っていないけど

名前もいちおう決めてあるんだ

そういえばあのアプリ

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『~創作欧州ダイニング~ Curious』

『~創作欧州ダイニング~ Curious』

☆★★★★

最悪でした。開店より少し早めに行きましたが、今日は予約でいっぱいですと断られました。それならどこかに書いておいてほしいです。せっかく両親を連れていって料理を楽しもうと思ったのに台無しです。

☆☆☆★★

まあまあ悪くない。

☆☆★★★

アルバイトの人の言葉づかいが気になった。メニューを置いてとくに説明もなく注文を取ろうとする。予想通り、何の料理かよくわからないものが運ばれてきた

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『オクトバーフール』

『オクトバーフール』

あんまりみなさんご存じないでしょうが

10月1日はオクトバーフールです

ビールのやつじゃないよ

4月の嘘つきのやつ

あれの秋バージョンです

もともとは

4月1日にジョークをやり忘れたり

準備が間に合わなかったりした人が

くやしくて

ちょうど半年後の10月1日に

リベンジというか

セカンドチャンスということで

始めたようですね

でもよく調べてみると

実はオクトバーフール

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『遠慮していますわたくし喜んでやりますわたくし』

『遠慮していますわたくし喜んでやりますわたくし』

飲み会なんていかないし

ましてや休日の

釣りや

ゴルフ

遠慮していますわたくし

はい

ふだんは

ふだんはね

でもなんだか

バーベキューには呼んでほしかったな

うまくいえないけど

呼んでほしかったな

Nちゃんがいたから?

違うよ

Nちゃんゴルフも得意だし

宴会部長だし

しょっちゅうみんな

Nちゃん含めて遊んでるでしょ?

そうじゃなくて

バーベキューには呼んでほし

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『迂回していく』

『迂回していく』

うん

だって

その前を通ったらイヤでも思い出しちゃうからね

迂回が習慣になってるよ

うちから駅までは直進できるけど

ひとつ手前の交差点をいったん左折して

しばらく行って

右折したら線路沿いに駅前ロータリーへ

帰りも同じルートを逆に

それでも迂回の瞬間は

あのことがよぎってしまうけど

あの家の前を通るよりはマシかな

警察には何度も何度も

吐き気がするくらいに問い詰められた

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『食う寝る浸かる、本を読む』

『食う寝る浸かる、本を読む』

冷製アミューズをスパークリングワインと共にいただいたあと

有機野菜のグリルが出され

白身魚にラムチョップ

リゾットで

エスプレッソとガトーショコラ

部屋に戻っては惰眠をむさぼり

ふと目覚ましに

連峰を望むテラスの露天風呂へどばぁっと

夕方の気持ち良い風を浴び整ったら

もはや我が身には関係のないオフィスの処世術がなんたらと

デカルトの方法序説だとかを交互に読む

そうすると日が暮

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『俺もねえよ』

『俺もねえよ』

おまえら死んだことないだろ

なあ

俺もねえよ

難しいことはよくわかんねえけど

昔の

古代の

王様とかエライ人はなんで

あんなに墓をデカくして

飾り付けて

見栄を張ったんだろうな

よくわかんねえよ

死んだらわかんないじゃん



俺すごいことに気づいた

死んだらわかんないかどうか

これもわかんないじゃん

全知全能かもしれないじゃん

だれも証明してなくね?

つまり神っ

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『"天空に舞い上がる-』

『"天空に舞い上がる-』

いまニートしてる兄ですけど

昔はすごかったらしいです

うん

なんとなく

覚えてる

20年くらい前かな

テレビにもたまに出てた

取材されてたね

湯切りの名人だっけ?

ラーメンの

あ、ごめんなさい

中華そばの

それと

漢字で書く場合は

湯斬りって書かないといけないのだそうで

私はラーメン

じゃなくて

中華そばのことは疎いけど

とにかく

兄は当時都内の

超有名な

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『箱で過ごそう』

『箱で過ごそう』

家から外に出るときは

箱で

安部公房のアレを

みんなやればいい

そうすれば

肌の色だとか

めんどくさいことを

気にしないで済む

カラーリングがクールならそれでいい

ソーシャルディスタンスも保てるし

ちょうどいい

蒸さないよう

エアコンをつけて

あぁ

環境に配慮して

そこはうまいことクリーンエネルギーでなんとかしてよ

会話はアプリを使ってなんとかしよう

カタコトがゆ

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『カンバンの時間になって』

『カンバンの時間になって』

「あたらしいコかあ、じゃあお尻を触らせてごらんなさい」

そのときアタシはまだ何にも知らなかったので

おどう(常連)の言うとおりにさせた

おどうはすすけた千円札を1枚アタシに差し出した

カンバンの時間になって

アタシはバッグを肩にかけ店を出ようとする

おどうはまだいちばん奥

とはいっても逆L字型で5つしかない

いちばん奥の席に浅く腰かけたまま

無駄なこだわりのコニャックをロックで飲

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『ある密林の工場で』

風はそよがない

建屋の中は蒸すばかり

湿り気のあるココナツクッキーがベルトコンベアを

延々と流れる

指揮官F大佐が

きょうも流れ作業を見守る

暇さえあれば

ポイとココナツクッキーを頬張る

平和維持軍の兵站工場として買収されたこの工場

本来は軍用保存食やらを作るはず

しかしF大佐は妙にここのココナツクッキーを気に入り

そのまま製造を続けさせた

ココナツクッキーはもともと当地の

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『明日一緒に河川敷を』

『明日一緒に河川敷を』

日本のどこにでもあって

とりわけ水が澄んでいるわけでもなく

流域にはこれといった見どころもない

河川敷

数十年前

中学への登下校は毎日ここを通った

少年野球の試合もよく

ここのグラウンドを使ったものだ

私はこのまちを離れたことがないが

たまに帰郷する友人曰く

だいぶ見える景色が変わったと

あぁそういえば

あんなマンションはなかったなとか

逆に

河口のヨットハーバーは寂れ

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