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カモネギに関する考察 (防犯。隙を見せない旅・その1)


さて。ここは想像力が試されるところである。
まず君は日本人ではなく、どこかの国の悪いヤツだとする。自分が困窮していると想像してみてほしい。明日までに、どーーーーしても、まとまった現金が欲しいのだ。取り立てが毎日来ていて、すぐに現金を手に入れないとヤバイのだ。親に借りるとか友達に頭を下げるとか、まっとうなことを言うのはここではなし。繰り返すが、君に金を貸すようなお人好しはこの世にいない。なぜなら君は超がつく悪いヤツなのだ。さぁ、どうする。
想像してみよう。コンビニ強盗や銀行強盗。防犯カメラに映らないように、捕まらないように速やかに犯行するのは、難しそうだしリスクが高い。何度も下見や準備が必要で、時間も足りない。じゃあ、誰か金を持っている奴から盗むか。自分だとわからないように、いったい誰からどのようにして盗めばいいのか。

もしも、近くに観光地があったら、何の地の利もなく言葉も通じない外国人観光客から現金をブン捕ってくるのが手っ取り早いと考えられないだろうか。あるいはもし同じような仲間たちがいれば、どこか人目のつかない所で囲み込んでお金やら携帯電話、カメラやら金目のものを巻き上げる。なんといってもこの土地に慣れている自分は裏道や隠れ場所にも精通しているので、追いかけられても簡単に撒ける自信があるのだ。

だって、そこら辺を歩いている現地人よりは外国人観光客のほうが、お金を身につけている可能性が高いだろう? 奴らは現地語を喋れないだろうから、ブン捕って逃げてもとっさに「ドロボウ!」なんて単語がすぐには出ないのではないか。周囲に知らせるにも警察への通報だって時間がかかるに違いない。観光客らはとっとと別の観光地に移動するのが常であるから、再び鉢合う可能性も低い。
しょせん勝手に自国へ遊びに来た、自分と違ってヨユーのある呑気な奴らなのである。どうせ成金の金持ちかなんかじゃないの? 余った金で遊んでいるのだから、いただいてもさほど生活には影響しないだろう。
たとえば日本人。だいたい肌色も顔立ちも違うし、おまけに「カタカタタタタ……」と変な外国語を発していて親近感も湧かない。これまたラッキーなことに能天気で脇の甘い人種だと聞く。実際見ていてもそう思う。そんな訳のわからないヤツから金をかすめ取ったって、良心もさほど痛まないというもの。
とまぁ、こんなことを考える輩が多いのではないかと思うのだ。


 
一つ、確信を持って言えることがある。
それは「犯罪被害はバリバリの観光地であればあるほど、起こりやすい」ということを。たくさんのカモがネギ……ではなく、カモがカネを背負って集っているのである。自然と発生率は高まるであろう。
さらに「大きな街であればあるほど、そこの住人は殺伐としがちだ」という世界共通の条件も付け加えておこう。田舎と都会を想像してもらえばわかるよね。先進国や後進国に問わず、人口密度が高いところは不審者が居付きやすいというわけだ。
つまり、この二つの相乗効果で都市部の観光地は犯罪が非常に多い。今度海外に行ったら、よくよく見てみてほしい。有名な観光地のゲートの前には、たくさんの客引きが集まっているが、そのほかにもカモを探している不審な奴らがジッとこちらを品定めしているのを。アジアやヨーロッパ、アメリカの都市部、メジャーな場所であればあるほど物騒なのだ。

このように「常に自分がドロボウだったら……とうい視点で考えてみる」ことだ。どんなヤツがカモか。どんな奴が悪目立ちして、どんなカバンの持ち方が狙われやすいのか。そう考えながら行動すると、安全な道や振る舞いというのが見えてくるもの。

大金の入った財布を無防備に人前で出している人。財布や携帯電話をお尻のポケットに差し込んで歩いている人。地図を大きく広げて明らかに土地に馴染みがない風情の人。同様に、人前でガイドブックを読み込んでいる「いかにも観光客」な人。疲れ果てて石段に座り込んでぼーっとしている人。大事なカバンを隣の椅子や自分の横に無造作に置いている人……などなど。盗っ人気分で想像力を働かせてみてほしい。日本ではまったく問題がない行為でも、旅先では一発アウトなのだ。

たとえば、カフェやファーストフードのようなお店で席を取るときは、間違えてもカバンを椅子においてレジに向かわないように。一瞬でバッグは無くなると思って。場所取りは盗られてもいいようなもの、相手にとってありがたくもないガイドブックや読めもしない日本語の書類や本などで代用しよう。そして国によっては、場所取りの「私物置きルール」など通用しないところもあるので、席に戻って誰かがしれっと座っていても大げんかしないように。日本の常識だからといって、万国共通ではない。

そして場所取りでなくとも、席に座っているからといって、カバンをテーブルを挟んだ自分のお向かいの椅子なんかに置かないように。カバンは常にぴったりと体の横か下。のんびり席に座ってくつろいでいても、カバンの持ち手などに体の一部を通しておくこと。急にひったくられても体のどこかに引っかかるように、床にカバンを置く場合は必ず片足を通すし、隣の席に置く場合は片腕を通す。またそういう行為を見せることで防犯にもなる。

もちろん、テーブルに置き時計よろしくスマートフォンを置いたりしないようにね。携帯電話を外に出すときは原則、手や体から離さないこと。日本でOKでも海外ではNG! くつろいでいるときほど、隙があるというわけなのだから。


さらに日本とは大違いといえば、高級ブランドのショッパー(紙袋)を下げ、まるで銀座よろしく海外のブランド通りを闊歩している日本人たちだ。これだけあちらこちらで注意されているのに、いまだにそんな人たちがいるので驚いてしまう。

外貨を獲得したい各国の観光地では「大金はココに落としてください!」と言わんばかりに数多くの免税店(デューティーフリー・ショップ)が、通りに寄り集まって出店されている。こんなショッピング通りは観光客も泥棒たちも大好き。
そしてあろうことかそんな場所で、ブランドのショッパーを携えて歩いている日本人がいるのである。どえりゃーことである。あろうことか、ブランドのロゴ入り紙袋なんて「この中に真新しい高級品が入っていますよ」と告知して歩いているようなもの。そこらへんの観光客からブランド品を踏んだくっても、所詮は中古品としての値しかつかないが、ショッパーの中は新品ホヤホヤのお宝が眠っているのである。狙わんでどうする!

私も一度イタリア滞在中、もうすぐ帰国すると実家に電話を入れた際に、清水の舞台から飛び降りちゃった母から、カルティエのバッグを買ってくるように命じられたときがあった。どうやら熟年女性へのステップアップに必須のアイテムだったらしい。やーだもう、それ本当に面倒臭いと心底思った。しかし母はもう、舞台から放物線を描きながらキレイに着地。私をワクワクしながら見上げているのだから仕方がない。
ヤレヤレ、母のために買いに行きましたよ。そして買ったや否や、周囲を見てから素早く店を出て建物の陰に滑り込み、カルティエのバッグを茶色のスーパーの紙袋に突っ込み、さらにスーパーのビニール袋に押し込んだ。そのうえ用心深く、そのビニール袋の中にミネラルウォーターやシリアルなどを一緒に入れた。大袈裟と笑うかもしれないが、笑えばいい。こっちは泣きたくないのだ。さらには母を泣かせたくない。
場所にもよる。が、海外ではこれぐらいやってフツー。本来はタクシーで帰るべきところだが、そこはもうほら、長期旅行も終わって帰国間際、お金もとうに尽きていた頃なので節約した末の手段だ。でもそれだけイタリアの、それもローマの犯罪率は高いのだ。しかもアナタ、ここは高級ブティック通り。

日本では、高級ブランドのショッパーを下げた女子たちをよく見かける。なんならむしろ、サブバッグのようにブランドの紙袋を再利用していたりもするから、少々感覚が麻痺しているのは致し方ないのだが、海外ではNG行為だ。
何度も言う。まず旅先ではこんなことはできないから。高級ブランドの紙袋をもっていたりしたら、速攻スリ集団に囲まれる。ヨーロッパの人たちは、普段もコートの中に自分のカバンを隠して歩いていたりするほど慎重だ。ブランド品をこれ見よがしに下げて歩くなどといった金持ちアピールは基本しない。
では彼らはブランド品やハイジュエリーはいつ付けるのかというと、パーティーや高級レストランなどに行くときに付ける。そして、そんな装いのときはまず街を歩かない。すべて車で移動してDoor-to-doorだ。なんなら運転手付きだ。危なくって、そんな格好で地下鉄に乗ったりなんかは絶対にしない。

とにかく、旅先ではいったん日本の常識は傍におこう。日本は本当にスリの少ない国だ。エルメスのバーキンやパティックフィリップの時計を、そこのけそこのけと振り回して歩ける国、それを持って地下鉄に乗ったり路地裏を歩ける国。ブランドの紙袋を持ち歩いても尾け狙われることの少ない、カフェの椅子にカバンを置いても強奪されない、裏道でナイフを突きつけられることのない、世界に誇れる安全な国なのである。隙だらけでも大丈夫。普段からピリピリすることなく生きていける素晴らしい国なのである。



ここまで読んでくれただけで、うれしいです! ありがとうございました❤️