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ぽんぽこ狸の休み処

今回は温泉の話。

肌寒く、金木犀がそこ彼処に香るこの季節が訪れるたびに温泉地へ足を運びたくなる。

最近は海外からの観光客が増え、北海道から沖縄までNIPPONへようこそ!感が強く中心地は賑わいすぎている。

この小さな島国にとって経済的にありがたいことなのだろうけど、落ち着いて観光できる場所を吟味しなくてはならなくなった現地人としてはすこしさみしい。

温泉街もいまや年齢国籍問わず大人気なため、場所によっては芋洗い・寿司詰め状態で入浴したことも幾度かあった。

しずかに、ゆっくり、遠出しすぎずに温泉を愉しみたい!

連休が少なく曜日無視のシフト制勤務者にとって「遠出しすぎずに」というポイントは重要だ。

ふと、源泉掛け流しのちいさな宿が目に留まった。
宴会お断りかつ、設備的にもファミリー向けではない。

これは…!と思い、出向いたのは湯河原町。
改札を抜けると狸の置き物がお出迎えしてくれる。

傷を負った狸が湯河原で温泉を見つけ傷を癒したのだとか。
ウシシ と歯を見せわらう狸は愛嬌があってかわいらしい。

バスに揺られ、川のせせらぎが聞こえ始めたころ本日の宿泊地へ到着。

源泉宿ゆっくり はバス停の目の前にある。
温泉街の先に滝があり、バスを降りれば水と木々の香りが漂うすがすがしい場所だ。

建物は古いが掃除が行き届いて気持ちがいい。
おどけた顔の狸たちが「いらっしゃい」と玄関先で目をクリクリさせている。

にっこり優しい笑顔の女将さんから鍵を頂き階段をのぼる。

踊り場にも狸たちが。

狸たちに化かされていて本当はどこかの空き家だったらどうしよう なんて思いながら自室の戸を開ける。
畳の香りがどこか懐かしい、窓いっぱいに景色を見渡せるこの部屋を一瞬で気に入ってしまった。

廊下から鳩時計が時刻を知らせる鳴き声をあげる。
時折誰かが自室前を通る足音。
川の音と鳥の声。

あぁ、静かだなぁ。
畳の上で足を伸ばしながらひと息つく。

夕飯は近くの居酒屋で済ませ、夜の温泉街をヒタヒタと歩く。

老舗旅館前を通ると背筋がふしぎと伸びる。
近くの宿泊客が履く下駄はカランコロンと道端に足音を響かせる。

湯浴みをしに宿へ戻るがこちらは本当に静かだ。

ありがたいことに脱衣場1番乗り。
加水しない源泉の温度調整は扇風機の風なのだそう。
ちなみに浴場にも狸くんがいる。

じわりと熱く柔らかい湯の中に身を浸すとお腹の底から熱くなってくる。

湯上りの肌は滑らかで眠気が妙に心地いい。
布団の上で、本棚から借りた小説「血脈」を読む。

本を片手にウトウト眠りにつくと、夢の中でちいさなハチローが宿の窓枠から顔を出し笑っていた。

非日常な場に身を置くと、時々こんな体験ができて楽しい。

翌朝は簡単に身なりを整え朝食会場へ。
脂がのったふかふかなアジの干物は、目が覚めるような美味しさだった。
この朝食のために宿泊したいくらいだ。

自室に戻り読書や湯浴みをしながら時を過ごす。
気がつけばチェックアウトの時間になっており名残惜しく宿を後にした。

バスの車窓から見えたお宿の狸たちは、またね と歯を見せわらっていた。

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