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母親が孤独死した話❶

この記事を読む前にこちらを読んでください。
https://note.com/makiguso_chan/n/nfadec7c516b6


突然の警察からの電話

7月某日、夜勤明けでグースカ寝ていると電話が鳴った。
私は知らない番号から電話がかかってきてもすぐには取らない。
着信履歴を見て番号を検索し、よく分からない電話番号には一切出ないし、かけもしない。
眠気まなこで着信履歴を見ると末尾4桁が「0110」で、検索してみるとN県の警察署からの着信だった。
N県警というと直近の某元総理大臣銃撃事件で「警察の防犯体制がなってない」等と相当叩かれたところだ。
「私、自分で銃作ってないけどな…」と思いながら掛け直してみた。

「はい、N県警です」
「すみません、先程お電話いただいたみたいなんですけど。まきぐそ(本名を伝えた)と申します。」
「あ、まきぐそさんですね。お繋ぎしますのでお待ちください。」

「お電話かわりました。刑事課の○○です。まきぐそさんですね。」
「はい。」
「実はお母様がお亡くなりになりまして、お母様の携帯電話に入ってて唯一繋がるのがまきぐそさんの電話番号だけだったのでそれでかけさせていただいたんですよ。それでね、遺体の引き取りをお願いしたくてお電話させていただいたんですよ。」
「は、はぁ…」
「それでどうしましょう。遺体の引き取りに来てもらいたいんですけど…」
「ちょっと待ってください。兄妹にも相談したいので時間をもらえませんか?」
「…いいですけど、できれば早めにしてもらえませんか。」
「分かりました。すみません。」

不思議と動揺はしなかった。いつかこういう日が来るだろうと思っていたが、意外と早く来たことにはやや驚いた。

兄妹での話し合い

N県警との電話を切ってからすぐに妹に電話をした。

「もしもし」
「どないしたん?」
「今ちょっといい?」
「今スタジオにドラムの練習来てるねんけどええで!」
「オカン死んでんて」
「え!!!うそ!!!そうなん???」
「今、N県警から遺体の引き取りに来てくれって連絡来てんけどどうしよ」
「ちょっと待って!今からそっち行くわ!」

とりあえず妹には連絡した。
問題は兄だ。

兄とは久しく連絡を取っていなかった。
これからどうするかを兄に相談したとていろいろ協力してもらえるんだろうか…
そんな考えが頭をよぎったが、とりあえず母親が亡くなったことは伝えておいた方がいいだろうと思い電話することにした。

「もしもし」
「おー、まきちゃん、久しぶりやなー。どないしたん?」
「久しぶり。元気?今さっきN県警から連絡があってオカンが死んだから遺体を引き取りに来てほしいらしい。」
「え!そうなん?うわ、やったー。お金あるんちゃうん!」
「お金あるんかは分からんけどとりあえずこれからどうするか決めようと思って。今から○○子(妹)も来るねん。」
「おー、そうかー。そしたらお兄も行った方がええかー。さっき仕事終わったからもう(ストゼロ)2本飲んでるけど。」
「まあこれからのこと相談できるのであれば来てもらえたら助かるわ。」
「家どの辺?今からタクシーで行くわー。」

こんな調子で久しぶりに兄妹が集まることになった。
私はこのことを後でひどく後悔した。

やはり兄は兄だった。

兄と妹が家に来るまでにこれから何をしないといけないのかをググった。
警察から遺体を引き取り、火葬してもらう場合は死亡診断書もしくは死体検案書というものが必要らしい。
病院で亡くなると医師が死亡診断書を発行してくれるが、病院以外でなくなると必ず検視しないといけないらしくその場合は死体検案書というものを発行してもらわないといけないらしい。
ただ遺体を引き取ったとて遺体を私達の住む土地まで搬送してもらうのか?安置する場所なんてどこにもないぞ?兄の家なんて20平米あるの?って感じだし、物を手放せない妹の家も荷物だらけだし、そしたら私の家しかないんだけど?だからと言って家が広いわけでもない。それに母親の遺体など家に置いておきたくもない。
しかも火葬すんの?ってそりゃそうだけど葬式すんの?親戚の連絡先なんて全く知らないんだけど、そいつら呼ぶの?葬儀ってめちゃくちゃお金かかるらしいのにそんなお金ないんだけど。
と、初めてのことで段取りなどいくらググっても全くイメージできず、全体を把握してから細かい順序を決めるなど到底できなかった。

すると妹が家に来た。
兄もタクシーで家の近所に到着したので妹と一緒に迎えに行った。
3人で会うのは2017年の12月以来だ。
大晦日に3人で酒を飲み、おせちを食べるなどしてるうちに酒癖の悪い兄が妹に絡み出し、妹が泣き出したので私は兄を無理やり送り届けたのだった。
兄はすでにストロングゼロを2本飲んでいると言っていたので不安に思っていたが、その不安は見事に的中した。(持論としてストロングゼロを飲む人は関わらない方がいい)

「どうすんねん、どうすんねん」を繰り返すだけで、こちらが何か言うと急に意味の分からないことで激昂したりする。
正直全くと言っていいほどお話にならない。

本来であれば今回の喪主は兄である。
その兄が仕事終わりですでに酒を飲んでいたのはまあ仕方ない。
でも今から大事な話をしなければならないと言うときにさらに酒を飲みすすめ、さらに酔っ払った挙句、また私達に絡み出したのだ。

兄は自分で何かを決めてそれを進めるということができない。
役所の手続きですら今まで一人でやったことがない。
全て母親に頼むか、私達に付き添ってもらってしかすることができない。
だからこういう初めてのことをググって私達に「これとこれとこれをしなきゃいけないから、こうやって進めて行きましょう」と提案することなどできる訳がないのだ。
半分分かっていたとは言え、兄ももう五十を超えているのだ。多少なりとも喪主である自覚くらいあるだろうと少し期待してはいたが兄は兄のままだった。

結局、約5年前の二の舞で終わった。
妹に「これ以上絡むんなら帰って!!!」と怒鳴られ「ほんなら帰るわ!!!」と言い、兄は帰って行った。