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いい料理とコンテンツ、その共通点、それは~「第三夫人と髪飾り」感想(ネタバレあり)

先日彼と少々イマイチなイタリアンを食べた。美味しいか美味しくないか、でいうとそれは十分に美味しい。たとえば枝豆のフラン、風味はあるし舌触りも悪くない。ただ何口食べても印象が変わらない。メインのパスタについては「家でも食べられる味」というのが彼と私の共通見解だった。

帰り道に彼といい料理ってなんだろうね、という話をして、その時答えはうまく出せなかった。
ただその後ふと頭に思い浮かんだのは、ついこの間みた「第三夫人と髪飾り」という映画のことだ。

19世紀のベトナム。裕福な一族に第三夫人として嫁いだ14歳のメイ。物語はメイが嫁入りし、そして今まで顔も知らなかった男と初夜で顔をあわせ、体を交わすところから始まる。彼女の陰鬱な心持ちが映像で表され、そのおぞましさにぞっとしながら、だけども妖しくも美しくもあって、何とも言えない心持ちになった。

その「何とも言えない」心持ちはその後もずっと続く。あっさりと妊娠したメイはそのことに戸惑いながらも、ただ「夫人」としてほっともし、ほどなく男児をもうけねばというあせりや野心をも持つ。そして第二夫人の秘密を知り、その事実に呆然としながら、第二夫人への思いを募らせるキッカケにもなる。
メイに感情移入すればするほど、嬉しいとか悲しいとか、そんな言葉では言い表せない、何とも言えない心持ちで胸がいっぱいになった。

何より最後の弔いのシーン。ひとりの少女の人生が悲劇的な結末を迎えたというのに、その一連の情景を私は美しいと感じ混乱した。そして彼女を死に追いやった時代と、そして登場人物達に対し、いいとか悪いとかひどいとかしょうがないとか、一言ではとても表することができない感情を抱いた。

最近のSNSでは「いい」とか「悪い」とか、白黒はっきりするような言説が好まれる。ついこの間も安倍首相夫人の服装が「いい」「悪い」という話題でもちきりだった。

だけど世の中ってそんな簡単に白黒つけられるんだろうか。たいていのことは「いい」と「悪い」が複雑に絡み合って、そのどちらの要素が大きいからと白黒つけるには向いていない。事実はもっと繊細だ。

そう、いい料理、そしていいコンテンツはたった一言では言い表せない。甘い辛い酸っぱいしょっぱい、嬉しい悲しい可笑しい腹立たしい、それだけじゃなくて、様々な要素が複雑に絡み合って、それをいくら紐解こうとしてもまとまらない。だからいくら時がたっても色褪せない。

現に先日のイタリアンの味の記憶はさっと消えてしまったし、「第三夫人と髪飾り」のことは観てからしばらく経つというのに、私の心を囚えてやまない。

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