「働く理由」の多様化を整理する
ダイバーシティが叫ばれる昨今ですが、ベンチャーやスタートアップ界隈ではフリーランスやフルリモートワークという所謂「新しい働き方」が浸透してきています。
「働く理由」を整理する必要性
特にシード期スタートアップ界隈などを見ていると正社員雇用は贅沢行為なのではないかと思うことが多々あります。腹を決めた創業役員は良いとして、その後に正社員として続くとなると「法的には解雇されにくい雇用契約」と「(主に)財務的な自己責任」の天秤が存在します。大手企業であっても自身の定年と企業寿命のどちらが長いかの確約が難しい中、スタートアップに近くなればなるほど「定年制度が問題になるくらい会社が続けば良いね」という色合い、期待値の減少が強くなります。そして半ばなし崩し的に「働く理由」の多様化が進んでいます。
キャリアや働き方の選択肢が増える中、自身のキャリアを決める上でも、採用する際にも意識する必要があるのが「働く理由」だと考えています。ITエンジニア界隈では人が居なさ過ぎることもあり、「働く理由」まで掘り下げずに内定を出しているケースが多々見受けられます。折角採用できてもその後の短期離職に繋がることも少なくありません。「働く理由」を掘り下げることで適切な契約形態も含め、定着に繋がりやすいためお勧めをしています。
2年ほど前に歴史を紐解きながら「働く理由」を整理したのですが、実に図が分かりにくく、気にかけていました。今回再整理しましたのでご紹介します。合わせてご覧頂ければと思います。
「働く理由」の多様化
再整理した「働く理由」を次に示します。詳細は先のコンテンツに譲りますが、ダイジェストだと下記のような形です。
〜90年代中盤
カイシャ
大企業
大手老舗上場企業を第一志望にする風潮
中小企業
一定数、大企業に行きたかったが叶わず自己肯定感が低い人達が含まれる
ムラ
待遇が低いが、コミュニティの協力と物価の安さで一定の生活ができる
人生のテンプレートが存在する場合、テンプレートからポジティブに飛び出た場合に後ろ指を指すことがある
〜00年代前半
ベンチャー企業の登場
自立した感じと圧倒的成長
語弊も含めた上でのフルスタックな働き方の推奨
派遣の登場
新しい働き方としての打ち出し
終身雇用ではないスポット人材の始まり
時給精算を好む人の登場
00年代後半〜10年代前半
フリーランスの登場
キャリアにコストパフォーマンスを求める人の登場
10年代後半〜
副業・複業
リモートワーク・フルリモートワーク
働き方に合理化を求める人の登場
好きなことを仕事に
一見ストレスが無いように見えるが、安定的に食える訳ではないストレスがある
やりたくないことをしない
派遣とフリーランスに見られる共通項
派遣の働き方が誕生した当初、「新しい働き方」として推奨され、拡がっていきました。この点で派遣とフリーランスは似ていると捉えています。「自由にどこでも働ける」「煩わしい人間関係に左右されない」などとフリーランスを奨励する諸氏が居られますが、契約の商流的には派遣会社が入る分、派遣社員の方が守られている格好です。特に後ろ盾がないフリーランスの働き方が社会問題になりつつあり、先立ってのクローズアップ現代でも取り上げられていました。
地方の今
地方創生のUターン、Iターンなどが話題となった後、リモートワークの台頭と共に地方在住ITエンジニアに注目が集まっています。前回のnoteより継続してインタビューをさせて頂いております。地方在住ですという方は是非お願い致します。北海道、山陰、四国、福岡以外の九州・沖縄など特に嬉しく思います。
まだ取りまとめ中ではありますが、下記のような傾向が起きているようです。地方在住エンジニアの働き方としてはまだ試行錯誤の段階であり、固まっていくにはもう少し時間がかかりそうな印象です。
ライフコストは低い
低単価な地方案件
発注金額が低い
東京の案件の再委託
補助金頼みのDXの推進
ほぼボランティアベースの民間企業DX
フルリモートワークによる東京案件の直接受注
時折はオフラインで打ち合わせる
オンライン完結だがコミュニケーションが難しく、些末な案件しか来ない現状
自治体によるバックアップ
スタートアップの後押し(福岡市)
雰囲気で後押しして乗り切れない各地域
組織づくりは「働く理由」を多様化すると冗長性が高くなる
重要なこととしては、どの「働く理由」が優れているというわけではないということです。どれか一つの理由で固めると脆い組織になります。
例えばベンチャー企業経営者の多くが大好きなのは「能動的成長志向」です。成長という文字の前に我武者羅に働きます。「能動的成長志向」の人を前面に出すと、「受動的成長志向」の人もフォロワーとしてついてくる傾向にあります。しかし「能動的成長志向」には燃え尽きる人や、飽きる人も多く2年程度で居なくなるため底の浅い組織になりやすい傾向にあります。
従業員エンゲージメントやサーヴァント型リーダーシップに対し、リモートワークでのフォローの難しさもあり「面倒くさい」と感じ、トップダウン型、アウトプット至上主義(売上至上主義)の組織デザインや経営フレームワークを導入してしまう企業がこの1-2年で増加傾向にあります。実際の研修でも「経営者が白いものを指差し、『これは今日から黒だ!』と言った際に社員全員が直ちに『黒です!』というのが良い組織です」というものもあり、ダイバーシティからは遠い印象です。
こうしたトップダウン型、アウトプット至上主義に対して自立心の強い「能動的成長志向」や、彼らに続く「能動的成長志向」の人は反発して辞めます。結果、自己肯定感の低い「消極的安定志向」やお金が安定的に出れば居てくれる「時給志向」の人のみが残ります。経営者の言うことは仕方なく聞くため、規定の時間を熟せば良い人月商売であればビジネスとして成立しますが、イノベーションを期待することは難しいです。
イノベーションやリーダーシップを発揮することができる人材を確保する必要がある一方で、企業自身の意思決定の変化や市場の変化に対し、致命的なダメージになるほど離職が起きるケースもあります。企業自身の意思決定の変化に対し、エンジニアが半数居なくなったケースもあります。こうした状態に備え、各属性の人を偏り無く集めることが組織の冗長化につながると考えています。
また、ライフステージの変化で働く理由が変化することもあります。先陣を切って長時間残業していた人材がお子さんが産まれて家族第一になったりすることもあれば、同年代の訃報を聞いてワークライフバランスを意識するようになったり、地方創生に目覚めたり、地方で古民家再生し始めたりする人も居ます。こうした「働く理由」の変化も加味して組織運営する必要があるでしょう。そのためにも「働く理由」の多様性は重要になってきているのです。
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