物価上昇を前に見られる未経験・微経験エンジニア界隈の異変
疫病に加えての戦争で物価の上昇が止まりません。そんな中気になるのは未経験/微経験エンジニア・未経験/微経験フリーランス界隈の動向です。
スカウト媒体を見ていると経歴1年未満のフリーランスの方々がポートフォリオを引っ提げて転職希望で名前を連ねており、アクティブにログインしている状態です。年収レンジは300万円未満、稀に400万円台以下。スキルセットはコーダーに近いHTML/CSS/WordPress/他フロントエンド少々といった具合です。
年収300万台で楽しく生きる、の崩壊
Amazonで「年収300万 豊か」「年収200万 豊か」などと検索すると色々な方の書籍が出てきます。節約術だったり、地方移住だったり、自給自足の半農生活などが出てきます。「年収300万でFIRE」は個人的には理解が及んでいません。
ギリギリの生活と引き換えにストレスを避けて暮らすスタイルの崩壊
私自身、Twitterで数ヶ月前に「月収30万円で生きられるじゃないですか。何が悪いんですか。」とレスを頂いていたこともあります。私自身、高学歴ワーキングプアをしていたときは額面月額15万円(その前は30万円)だったのですが、健康保険、年金、市民税でだいぶ厳しい感じでした。月収30万円となると都心を離れ、移動せず、切り詰めての生活になるでしょう。ギリギリの生活と引き換えにストレスを避けて暮らすというのが年収200-300万円台で楽しく生きると標榜していた層ですが、物価上昇の直撃を受けて収入というストレスに晒された際にどう動くのかというのがポイントでしょう。
足りない分をギグワークで補填できるのか
ギグワークとはフードデリバリーに代表されるようなスキマ時間を活用したビジネスです。本業にする方も居られますが、足りない生活費を稼ぐために使われる方も居ます。物価の上昇に対して配達を増やすことで賄うのか、本業を変えて改善を図るかが問われていきます。
情報商材の変遷
2018年のプログラミングスクールには「エンジニア転職で年収+100万円」という儲かる謳い文句がありました。
未経験での年収上昇が厳しいらしいことが明らかになってくると、各プログラミングスクールの広告が2019年には「未経験フリーランスで自由な働き方を」と変化します。儲かるという煽り文句の一派はFIREへとアプローチを変えましたが、メインストリームからは儲かる軸は減りました。内定が必要なエンジニア転職に比べ、開業届を出せば良いだけなのでハードルはありません。
その後、年収200-300万円で楽しく生きていくという人達が登場します。300万円代で生きていくのは大変なので、スキルアップや役職アップを狙っていただきたいのですが、「出世すると責任が増える」という観点でメンバーに残留する人達は多いです。
よくよく話を聞くと「現在の年収であっても前職より働き方も待遇も良いので多くは望まない」という声も聞こえてきました。こうした声を上げる未経験者の中には公務員(警察官、消防官、役所勤務)の比率が高い傾向にあります。年功序列の収入形態、体力的な厳しさ、顧客(市民)の横柄さなど色々な転身理由が聞こえてきています。また、コロナ禍特有の事象としては職場環境が厳しい看護士の方の転身も多く見られます。
悩ましいところとしては、こうした情報商材を元に不適切な期待値でエンジニア転職をした結果、挫折した人がどこで何をしているかをトラッキングする方法がないということです。Twitterにしてみてもエンジニアになるためにアカウントを作成し、挫折とともにアカウントを捨ててしまうので追うことができません。元気にしてくれていれば良いのですが。
消費者庁による注意喚起
キャリアチェンジまで行かずとも副業の形で生活費の足しにしたいというのも当然の流れでしょう。そこに情報商材が目をつけ「誰でも手軽に一日数万円が稼げる」と謳っていくわけです。この度、消費者庁からの注意喚起もあり、被害が白日の下に晒されつつあります。
地獄への道は善意で舗装されている
ここのところ興味深く拝見しているのが下記のかけだしちゃんの漫画です。その中であった言葉がこの「地獄への道は善意で舗装されている」ということです。地獄への道は善意で舗装されている、とは第2回十字軍に由来するとされるヨーロッパの格言です。地獄は善意で満ちているが、天国は善行で満ちている、というものもあります。実際、情報商材側の感情設計の巧みさに感心します。
未経験層を巡る「営業奨励」の背景
未経験の方々を取り巻く言説の一つに「営業を頑張る」というものがあります。本来であれば技術研鑽に励んで頂きたいフェーズですが、よちよち歩きの状態から営業を開始します。かけだしちゃんの話で行くと下記に相当します。
発想がドブ板営業と言いますか、「町中で突撃名刺交換」「ひたすら架電」と大差ないアプローチで、それはエンジニア的なのだろうかと疑問が残ります。以前話題にしたSPAM化する転職スカウトと同じで、返信率が1%なら100通送りましょう、1件取れるんでという妙に前向きな発想です。私も前の職場でいつのまにか営業目標がついていたのですが、経験上システム開発においてそのやり口で良質なお客様と契約に至ったことはありません。足元を見られて終わります。
自身で営業をし、かつ独立して感じることですが、フリーランスエンジニアで営業機能をフリーランス紹介エージェントに任せても生活が困らないというのは、エンジニアそのものの単価が他職種より高いため外注(エージェント利用)しても自身の取り分と自身での営業コストを天秤にかけた際に大きな問題にならないためです。単価の低い状態では営業を外に出すと取り分が減り、死活問題に繋がるため自力の営業は避けられません。結果、上記のような営業スタイルにならざるを得ません。
中には「とりあえず自分がこなせなくても受注。Web制作しかやったことないけどIoTでも受注。自分ができないものは再委託(ただし企業との契約書は見ていない)。」と案件受注に重きを置いた情報発信者も居ますが、法的なリスクが高すぎますね。そしてそれはもうエンジニアではなく、営業職です。
プログラミングスクールによっては受講者が受注した仕事をメンターがサポートしてくれるというコースも存在します。実際に引き受けた仕事を元にプレッシャーを感じながら業務にあたることは確かに成長には繋がりますし、私も10数年前に何件か受注しましたが、何もないところから対企業で契約すると法的なリスクがあります。
企業側の意見としては、見込み顧客の中にはWeb制作に対する価格イメージがすっかり「未経験水準」に引き下げられ「サイト制作をお願いしたい。予算は上限5万円です」という話も入っており、誰も幸せにならない負のスパイラルが完成しつつあります。
この界隈はバックエンドエンジニア < フロントエンジニア < コーダー < デザイナー・マーケターの順に香ばしくなっていくので個人的にもメスを入れたいポイントです。
お金を出した情報は信じたくなる人間心理
私自身、このnoteを続けて3年目になり、未経験の方に向けた発信も継続しています。しかしどうしても「読まない人は読まない。40文字以上読まない人も居る。どんなに声高に叫んでも救えない人は救えない。」という壁を感じます。下記のような投稿をしたところ、いくつかご提案頂きましたので見ていきたいと思います。
サンクコスト・コンコルドの誤謬
一度投資をしてしまうと元を取り戻そうとする心理が働く現象です。私の未経験者層向けの記事もかなり読まれているのですが、結構な金額(月額数万円~数十万円)の有料化をしないと響かない層は居るなという実感があります。そんな予定はありませんが。
名声価格
中身の無い情報であっても、金額が高いと満足感を得てしまうという現象です。IT界隈で言うところの、本来であれば専門書を買えば良いところですが、その十数倍の金額で薄い情報を買ってしまうという現象です。
認知的不協和
かけだしちゃんの下記の回がまさに相当するものでしょう。教材とセットで「優しいコミュニティ」を形成することがポイントなようです。
何を言っても否定しない、承認するということを規約レベルで書いてあるオンラインサロンも存在しています。傷つきやすい人、承認を求めている人をターゲットにしていくというのがポイントとのことです。
Quoraに興味深いやり取りがありましたので紹介しておきます。経験が不足している、認知が不足している、しかし能力以上にプライドがあることで耳障りの良いインフルエンサーやオンラインサロンに課金してしまうというものです。
格差社会と日本の貧しさを知らしめられたような思い
「2040年の未来予測」に下記の下りがありますが、円安で下記のトリガが引かれてしまったという状態でしょう。
特にこの1ヶ月で強く感じるのは「日本の生活って想定したより水準下がってない?」という思いです。おそらく緩やかに下降を辿っていたところに円安がダメ押しとなり、貧しさが露呈してしまったような形ではないでしょうか。儲かっている人は儲かっているのですが。
いつのまにか日本は自己責任が前提となっているので、計画的にせよ偶然にせよ個人のキャリア構築をしていくことが求められています。しかしここを狙っての情報商材は恐らく既に登場していますのでゆめゆめご注意下さい。
最後に、承認欲求を満たせない方の私のオンラインサロンも紹介しておきます。noteやTwitterには書けないことや個別相談、質問回答などを展開しています。経験者エンジニア、人材紹介、人事の方などにご参加いただいています。参加者の属性としてはかなり珍しいコミュニティだと思っています。初月無料、月額500円で細々と濃い話をしています。
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