中途ITスカウト媒体の混迷と、負のスパイラルを図解してみる
2022年3月と8月にも転職スカウト媒体の異変について言及したのですが、ここに来て懸念が現実のものとなり、一部スカウト媒体を除くと悲惨な状況になっています。
今回は中途スカウトの状況を整理しつつ、何が起きているのかということについてお話ししていきます。
新卒スカウト媒体については就活生という一生のうちに1度(就活で迷った上で進学したり、就職留年したら2度3度とありますが)のものであることもあり、中途採用のような拗らせは見られません。ただただ中途スカウトがおかしいです。
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スカウト媒体の利点を振り返る
スカウトについての利点について先に言及したいと思います。私自身、スカウト媒体でスカウトするだけでなく、候補者側としての利用もあります。今は消失したスカウト媒体のインフラ責任者だったこともあります。前提として思い入れはあります。
スカウトは「望む人材に直接コンタクトが取れる」というのが利点です。間に業者が介在しないため、直接訴求ができます。そのため近年までは「スカウト文をいかに魅力的に書くか」というのが採用成功の序盤にありました。
スカウト媒体運営企業としてもメリットはあります。マッチングの場を提供し、介在する人物を持たないのでキャリアアドバイザーが不要です。大幅に人的コストを減らすことができるため、新規参入が多くありました。
スカウト媒体を取り巻く負のスパイラル
エンジニアバブルが怪しくなった2022年11月以降、スカウト媒体に異変が起きました。図示すると下記のようになります。それぞれの要素について見ていきます。
【企業】景気の悪化と採用像の見直し
2021年をピークにIT業界の景気が悪化しています。コロナ特需に後押しされたような側面もありますし、世界情勢が安定していたということもあるでしょう。
スタートアップも深刻です。下記はアメリカのスタートアップの平均投資家数の推移ですが、2021年をピークに大幅に減少しています。日本でもやや遅延する形で減衰していき、2023年は調達に苦しむ企業が増えており、ダウンラウンドを選択したり、エクイティファイナンスではなくデットファイナンスを組むスタートアップも多く見られるようになりました。
各社売上・粗利に厳しくなっており、即戦力採用に腐心するようになっています。育成が必要なジュニア層や、売り上げが不透明な研究開発などからは離れる傾向にあります。そのため求人はしますが厳選採用ですし、無駄な採用工数を割くくらいであれば事業に直結する行動をしたいという傾向に繋がります。
【企業】スカウト媒体の売上を巡る迷走
強気の提示金額で候補者を煽る企業が見られなくなり、無難な各社内で準拠、もしくはややストレッチ程度の給与提示が多くなったことから、候補者の動きが渋くなっています。
一方で各社即戦力人材の採用はしたいため、スカウトは打つのですが、スカウトが混みあっているために既読率・返信率ともに芳しくありません。
そこで起きるコミュニケーションがスカウト媒体側からの「取り敢えず100通打ちましょう」というものです。ここのところの流れとしては、「100通も打てない」と言うとスカウト媒体側から「弊社で打ちます」というコミュニケーションも見られます。
更に採用がそれなりにできている企業だと「300通打ちましょう。ただし追加で300通スカウト枠を買ってください」というコミュニケーションを取ってくるスカウト媒体もあります。聞くと特にプロフィールを読み込むわけでもなく、スカウト文をカスタマイズするわけでもなく、検索に引っ掛かった人にテンプレート送信するという施策です。
こうなってくると発想がメールマーケティング、ないしは迷惑メールなんですよね。これで変に給与上限が高かったりするとロマンス詐欺にすら見えます。短期的なスカウト通数の売り上げは上がりますが、それだけです。スカウト媒体自らが返信率を下げに行っています。
【候補者】候補者体験の悪化
企業は無駄な選考工数も掛かりますし、候補者も見切れないため誰も幸せになりません。そこでよく起きるトラブルが下記のようなものです。
スカウトに返信したところお見送りされた
カジュアル面談で書類提出を求められた
カジュアル面談で志望理由を聞かれた
カジュアル面談が面接だった
カジュアル面談後に合否連絡が来た
こうした苦情を多く耳にするようになりましたが、問題の根幹は「雑なピックアップ」と「雑なスカウト」、そして「スカウト媒体から企業側に対する雑なマインドセット」が原因です。
【企業・候補者】お互い時間を割いてもすれ違う状態
選考を無事通過し、内定を出すわけですが、前述したように派手な年収提示をする企業が居なくなったため、現職が相場より低過ぎない限りは伸び悩む傾向にあります。自社内のコンサバな給与制度に基づいてエンジニアバブル以前からキープ、もしくは微増に留まった提示がなされるため、現職比較でダウン提示もあります。
結果、「転職活動を辞めて現職に残ります」となります。採用企業としては他社決定なら、まだ条件や選考フローの反省会ができるのですが、現職残留は「この採用時間はなんだったの?」となりがちです。
負のスパイラルを断ち切ることはできるのか?
この負の連鎖はどこかで断ち切らねばならないでしょう。何も採用市場を知らない企業と、転職方法に明るくない人をひたすら開拓して初期費用を稼いでいる節があるスカウト媒体もあり、苦々しく思います。
原点に立ち返り、候補者の入社後活躍を念頭に置いたマッチング精度の向上に努めて頂きたいところです。出会えるかどうか分からないスカウト通数課金より、入社による成果報酬に比重をおいて頂きたいところです。
候補者側からのエントリーの勧め
「スカウトメールが来過ぎて怖い」こうしたご相談を多く頂くようになりました。有名メガベンチャー在籍だったりすると1日に100通以上受信しています。急にメールボックスが溢れるわけで、それは怖かろうと思いますね。
では今のスカウト媒体は全く駄目かというと、そうでもありません。是非候補者側から企業に対してアクションをしてみてください。多くの企業はそのアクションを受けてプロフィールをしっかりと読み込みます。その上でOKであれば次のステップやカジュアル面談に進めるため、先に述べたような「理不尽なカジュアル面談のお誘い」は大幅に減ります。
もっとも、候補者の中には求人票のタイトルすら読まずにクリックする人が少なくないので、100%な方法ではありません。それでも不快なカジュアル面談それはその企業の採用が下手なだけですので、企業をお見送りしましょう。企業からのスカウト待ちをするだけでなく、是非能動的に動いてみましょう。
Pittaの取り組み
次なる採用や接点の形として、スカウトの次の形を模索されているサービスの一つがMeety改めPittaです。新しい選考体験を形にされようとしており、今後が楽しみです。
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