リモートワークを巡る議論の変遷と、組織としての着地点
先立ってサポーターズさんにて人事の方を対象としたリモートワークを巡る現状についてのセミナーを実施いたしました。今後アーカイブ配信や書き起こしなどもなされていく予定ですので暫しお待ち下さい。
こちらのイベントのみならず、リモートワークから出社への回帰に当たってのお悩みを多く頂いています。今回はこれまでの変遷を整理しつつ、現状で多く見られる課題とその落とし所についてお話します。
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リモートワークを巡る議論の変遷
本noteでも取り上げてきました話題の一つがリモートワークです。ここで過去のコンテンツを振り返ってみたいと思います。
2020/6 過激化するリモートワーク推進派
2020/3から広まり始めた当時「未知のウィルス」だったコロナの拡大により、リモートワーク推進派の過激化が起きました。「従業員の命を優先して考えているのですか?」という主張も現れ始めた頃合いでした。ニューノーマルという言葉も懐かしいですね。
2021/4 外資ITによる出社への回帰
外資ITによる出社への回帰が起き始めます。良くも悪くもGoogleが始めるとそれに倣う企業は多く、出社頻度が増え始めた企業が観察されたのもこの頃からです。
2022/5 地方在住ITエンジニア
フルリモートワークを継続する企業にあって、地方から働くという選択肢を取る方や、全国採用を展開する企業が増えていきました。本noteでもインタビューを実施し、各コンテンツへと反映させて行きました。
2023/4 コロナ五類移行に伴う出社への回帰
コロナ五類移行に伴う出社への回帰が起き始め、現在に至っています。
2022年までは経済産業省の資料を根拠としたITエンジニア不足に対する危機感や、アベノミクス以降のIT界隈の好景気さと相まった積極採用企業が多く見られました(エンジニアバブル)。コンサルも自社サービスもスタートアップも採用目標人数を追っていたため、母集団を確保するためには都内近郊だけでは足りなくなったため、フルリモートワークを前提とした採用が拡大した形です。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf
出社への回帰に見られる課題
フル出社ではないにせよ、出社への回帰をする企業が多い中、採用した社員や候補者の意志との衝突があちこちで確認されています。
リモートワークを権利だと思う一団
コロナ禍序盤から見られましたがリモートワーク過激派とでも申しますか、「タスクが問題なく消化できているのだからフルリモートワークで問題ないだろう」からの「フルリモートワークでない会社はダメだ」という強い否定のロジックを展開される方が一定居られます。
しかし現在の状況を見ていくとフルリモートワークに経営上の合理性を求めるには下記のような項目がアンド条件で求められる傾向にあります。
事業が成立している
社員のパフォーマンスや定着が不満のない水準
マネージメントコストが低い
大きく黒字な会社・時価総額が堅調な会社
フルリモートワークを転職するも他の要因で辛くなるが、その次の転職先に困る
2015年から2022年という長い間のエンジニアバブルにより、転職がネガティブなものではなくなったためにジョブホップしている人たちが多々居られます。中には数カ月~1年程度での転職をされる方も一定居られます。転職によって年収が上がるという理由や、人間関係を理由にしたジョブホップもありましたが、コロナ禍になってからはフルリモートワークやスーパーフレックスといった働き方の条件を理由に転職するケースも見られています。
下記のOffersデジタル人材総研の調べでも、リモートワーク頻度が削減・廃止された場合に転職や会社との交渉をすると答えた方の中には「入社時の条件としてフルリモートワークや、頻度の高いリモートワークが提示されたため」という回答が見られました。
当初合意した理由と実態が乖離する状態のため意思決定の流れとしては明解です。しかし現在フルリモートワークで採用をしているのは一部の企業と、正社員が若干名しか居ないスタートアップ以外の企業は少なくなっているため、感情に任せた意思決定をするとその次の会社が安定しているとは限らず、余計な職歴が増えてしまうリスクが高まっています。
「現在は地方在住ですが都内引っ越しを前提に転職活動をしています」という人が実際に引っ越さない問題
いくつか聞こえてきます。おそらく内定通知書に書いてなかったんでしょうね。
入社してすぐに余人をもって代えがたいバリュー発揮ができれば構わないかも知れませんが、一般的には入社からしばらくは教育機関としてマイナスバリューとなります。入社時の企業側の受け入れ条件として合意したからには守っていただかないと後続の条件は厳しくなりますね。
キャリア初期からリモートワークを経験したことに寄るリモートワークネイティブ世代
未経験採用可の求人は減少しており、やっていたとしても21新卒、22新卒と定義を厳格にして回している企業に限られている傾向があります。
一方、当の20新卒、21新卒、22新卒、23新卒の一部は入社式からして既にリモートで執り行われた人も居ます。オンボーディングや教育もリモートで実施されているため、出社という概念がありません。どうにもギャップがあるので話を集約していくと、出社そのものが「これまで経験したこともない平成に見られたレガシーな取り組み」と認識しているようです。
コロナ禍以前に社会人を始めた人たちには想像しにくい苦痛であると考えらます。おそらく「インターネット検索禁止」で業務を強制されるのに近い苦しみを抱いているのではないでしょうか。
先のような未経験採用を年齢制限ありで実施するとこうした人たちが一定数現れます。それ故にリモートワークの条件を求人票やスカウト文から消した企業も見られるようになりました。
こうした人たちが中途入社する場合、入社時研修からしてPIPのような社会人としての再教育が必要となる可能性があります。採用人物像をどのようにするのか、入社後の接し方はどうするのかなどを経営層と合意してから取り組んでいく必要があると考えています。
企業にとってフルリモートワークは難しい
各組織を見ているとフルリモートワークを継続できている企業には下記のような条件を満たす必要があります。
コロナ禍前からリモートワークに取り組んで居り、リモートワークを前提とした文化形成ができている
例)情報格差が生まれないような徹底したドキュメンテーション
未経験層(育成対象)が社内に居ない
新卒であっても即戦力採用しかしていない
サボる人を入社させない仕組み
もしくはサボる社員がいても問題にならない圧倒的な売上
開発生産性だけでなく売上や粗利を見た際にも合理性が高い
人が居れば居るほど儲かるビジネスモデル
人が居なさ過ぎて案件を断っているような組織
世界的に見たときにGoogleもMetaもZoomもXも出社へと戻っていますが、GitLabについてはフルリモートワークを貫けています。下記の本でも大筋で上記のような条件が記載されており、フルリモートワークの成立はエネルギーが必要であることが伺えます。中でも特筆すべきはGitLab Handbookでしょう。従業員の情報格差がないようにドキュメンテーションが徹底されており、そのページ数は3000ページに及ぶとあります。
弊社の取引先でも全国採用を継続している組織がありますが、実にドキュメンテーションが非常に充実しています。オンボーディングの際にはずらりとタスク設定や理解チェックテストが並び、その全てに参照すべきドキュメントや教材が紐づいています。フルリモートワークの状態で人を増やし、組織を拡大していくとなると雰囲気を継承していく風潮では厳しく、ドキュメンテーションにまとまった労力を割いていくことが必要なのだと感じています。
気になる地方自治体の動き
コロナ禍の地方移住で俄かに活況だったのが、地方移住に伴う人口増に期待した地方自治体です。今でもWBSのような経済ニュースでさえ、地方移住が活況である旨の取り上げ方をしています。
下記は2月の記事ですが、県外からの移住に熱心でニュースでもよく耳にする自治体の一つに長野県があります。ここのところの転入の内訳は外国人にシフトしてきているとのことです。
コロナ禍で話題になった自由な働き方や田舎暮らしの選択。各人が自由にすれば良いとは思う一方で、キャリア選択の観点からは大きな制限が起きています。
私のところにキャリア相談されて来られる方の中にも地方移住も含めたフルリモートワーク希望の方が居られるのですが、キャリア選択の可能性が狭まるため現在はお勧めしていません。
一方で都合の良い情報のみを集めていくと「まだまだフルリモートワークで行ける」「出社強制はオワコン」と誤認もできます。偏りなく情報を集め中長期的な視点で損をしない意思決定をしましょう。
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