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老い。

「夏子さん、全然シワないわよね。
本当若いわ〜。」

「そう?ありがとう。
でも、若いのは顔だけで、
体はガタガタよ〜。」

カフェで本を読んでいると、
二人組の女性の会話が
聞こえてきた。

耳に入る声、
ぼんやり視界に入る
洋服の感じからは、
70代の印象を受けた。

でも、
ご本人も肯定しているくらいだ。
きっとお顔は
すごく若く見えるんだろうな。

もしかしたら
50代後半に見えるかも?

凝視したい気持ちを抑え、
背伸びをする振りをして
横目で右の方を見た。

あれ?

化粧で隠しきれない
目元に集中するシミ。
ブルドッグのような
頬と顎のたるみ。
携帯の加工でも消せなさそうな
ほうれい線。
茶色にくすんだ肌。
痩せているけどたるんだ下腹。

それなりのおばあちゃんだ。

たしかにシワは、少ない?

実年齢は分からないが
予想外の想定内、
70代シニアに見えた。

「若い」の定義とは何か、
問いたくなる。

いや、待てよ。
もしかしたら80代後半、
いや90代かもしれない。
きっと、
その世代の中では
とても若いんだ。
そう自分を納得させた。

決してシニアの方を
卑下してるわけじゃない。
やわらかい目元、
すこし丸くなった腰、
懐かしい。
亡くなった祖母に
会いたくなった。

はあ。

それにしても。
私もいつか
こうなってしまうのだろうか。

想像できないし、
なりたくもないが、
きっとこうなるのだろう。

10代の頃、
35歳はもう
おばさんだと思っていた。

今、35歳。
自分がおばさんという自覚は、
全くない。
20代後半でもギリギリ
通るような気がしている。

それに、
35歳の女性を
おばさんとも思わない。
同年代の友達を見ても、
まだまだ若いと思う。

むしろ、
40代の女性も
まだまだ魅力的で
若い人はたくさんいる。
心や生き方が
反映される40代こそ、
美しいと思うこともある。
50代になると
おばさんになるのかな?

でも、
きっと55歳になっても
同じことを思うのだろう。

55歳。
おばさんという自覚は、
ない。
55歳の女性を
おばさんとも思わない。
同年代の友達を見ても
まだまだ若いと思う、
と。

そして、
隣の二人組のシニア女性も
同じことを思っているのだろう。

それでも。

最近、
ぼんやりだったことが
はっきりしてきた。

おばさんという自覚こそないが、
確実に顔が変わってきた。

たるんできたのか、
太ったのか。
それともその両方なのか、
顔が大きくなった。
帽子を被ると、
この帽子、
こんなに小さかったっけ?
と思う。
顔半分下の面積が
数年前より広くなっている。

光がよく入る鏡を見ると
ゾッとする。
化粧でもカバーしきれなくなった
目元のシミに。
重力に耐えれなくなった頬に。
影の濃くなったほうれい線に。
紫外線の代償がこれから
どんどん肌に
現れてくるのかと思うと、
漠然と怖い。

こうなると
分かってはいたけど、
今さら思う。
あの時、
紫外線対策をしていれば
よかったと。

だけど、もう戻れない。
顎を引くと二重になる顎。
深まるほうれい線。
ツヤめかない肌。
できてしまった
たるみもシミも
どうしたらいいか分からない。

ぼんやりだったことが、
はっきりとなった。

老化が始まったのだ。

この前、産婦人科で
「35歳は高齢出産だからね」
と言われた。

その夜、
母を飛び越えて
祖母に似てきた顔を見つめ、
自分は若くはないんだと
初めて自覚した。

若い気がしていたけど、
ちゃんと
年齢を重ねている。
それに、
見た目がどんなに若かろうが、
実年齢を変えることは
できない。

カフェを見渡す。

40代、50代、60代、
体型に関わらず
顎の下にラインがある。

10代、20代には
見当たらない。

そうか。30代は
変化に悩む時期なのかもしれない。
今の顔の悩み、
それなりなのかもしれない。

少し安心する。

前に40代くらいの女性が
座っている。

これまで
険しい表情をする機会が
多かったのだろうか。

表情を動かす度、
額のシワが波打つ。

私も気をつけなきゃ。
老いは止められないかもしれないけど、
柔らかく歳を重ねるため、
これからできることもある。

前の女性が
コーヒーを飲むため、
マスクを下げる。

あれ?
一気に10歳くらい老けて見えた。

ショックだ…。
こんなにも口元に
年齢がでるんだ。

右隣では二人組が
病気や年金の話をしている。
カフェでお喋りしている
シニア女性の多くは
この話をしている気がする。

左隣に女性が座ってきた。
チラッと見る。

色が白く、
粉雪のように肌がきれいだ。
高く見積もっても20代前半。
やっぱり 
10代20代は肌が違う。

彼女には
10歳若く見える魔法の
マスクもいらない。

きっとマスクをとったほうが
美しいだろう。

逆に今だけの若々しさが、
マスクのせいで
もったいない。
「今の美しさ大事にしてね」
と心で伝えた。

そういえば、
昔はよく肌を褒められたな。
色が白くてきめ細かいと。
私も昔は
この女性のような肌を
していたのかな。
最近肌を
褒められることもなくなった。

やっぱり、
私35歳だ。

右隣から声が聞こえる。

「もう、78かと思うとね〜。
なんだかね〜。」

「あなたと7個違うからね。
でもまだまだ元気でしょ?」

「5個、7個はたいして
変わらないて言われるけど、
変わるわよ〜。
自分はまだまだ若いと思うけど、
あっちが痛い、こっちが痛い。
やっぱり体は
歳をとってるんだね〜。」

会話から二人組が
78歳、71歳という事実が
判明する。

へっ?若くないやん!

失礼ながらそう思ってしまった。

「若い」の定義とは何か、
再度問いたくなった。

だけど。
いつか私もこうなる。

まだ感じない
老化による体の痛みも、
萎んでいく顔も、
等しく経験する。

それでも。

何歳になっても
自分のことを
「まだまだ若い」
と思えたらいいな。

78歳に見える
78歳のおばあちゃんを見て、
そう思った。

70代になっても
健康な体で、
カフェで友達と
おしゃべりできたらいいな。

楽しそうに話す
二人組のシニア女性を見て、
そう思った。


待てよ。
未来に思いを馳せる前に、
私は今、健康だろうか?
イエスと言えない。

老いを考える前に
健康を見つめ直そうと思った。

2022/4/5

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