見出し画像

飾りじゃないのよ、コンセプトは。(前編)


「コンセプト」とは何か? この問いに明快に答えられる人は、ブランディング業務に携わっている人でさえも、正直少ないのではないでしょうか?「コンセプト」とは、日常で触れる機会が多いにも関わらず、分かりやすい共通定義がなく、実に曖昧で、なんとなく扱われていることが多いのです。しかし、曖昧ではない「ちゃんと機能するコンセプト」があれば、 プロジェクトや広告コミュニケーションが劇的に円滑になることも事実で、そのようなプロセスを何度も私自身が体験してきました。私はコピーライターとして、いわゆる広告だけではなく、ホテルやショッピングセンター、飲食店の開発、まちづくり、時には、絵心ゼロどころかマイナスの私がプロダクトデザインまで、領域を超えた仕事をさせてもらっていますが、それができているのは「コンセプトクリエーション」を軸に活動しているからだと感じています。そんなコピーライターとしての経験から、自分なりの「コンセプト」の考えを、少しだけシェアしてみたいと思います。

コンセプトは「概念」じゃない

では「ちゃんと機能するコンセ プト」、つまり「良いコンセプト」とは何でしょうか? そこに行き着くためにはまず、コンセプトの役割をクリアに知ることが必要です。(図 1)

ずばり「コンセプト」とは、直訳の通りの「概念」やイメージワードではなく、そのブランドや事業が目指す理想=ビジョンを実現するための、指針となるワードのこと。行きたい場所へ導く羅針盤のようなものです。 そのブランドや事業がなぜ世の中に新しい価値を提案したいのかという動機(WHY)・目指したい理想がビジョン。それをどう実現するか (HOW)をワード化したものがコンセプト。それによって、世の中に施策(WHAT)が生み出されます。

 しばしば、「ビジョン」と「コンセプト」は混同されますし、そこを分けなくてもいいと考える人もいるかもしれません。しかし「これからの社会、地球、人にとって持続可能な良いこととは何か。本当の豊かさや幸せとは何か」という価値が重要視される時代に、社会に対する強い意志や、示唆に富んだ「ビジョン」がないブランドや事業は、人々から共感を得にくく、淘汰されていくと思います。強いビジョンと、それを実現に導く強いコンセプトという2つのエンジンが、これからますます大切になってくるはずです。


機能するコンセプトと、残念なコンセプトの違いは?

しかしながらコンセプトの中には、「それ言われてもどうしたらいいかわからないよー」という残念なものも多く存在します。この「どうしたらいいか意味不明」というのが、コンセプトとして一番ダメ。なぜなら前述したようにコンセプトの役割とは、大きな思想(ビジョン)と達成したい施策(新規事業や商品販促など)に対して「興味・共感を持ってもらい」「行動する意味がはっきりわかる」コトバだからです。例えば、商品コンセプトだとしたら、組織の内部が開発する時の判断基準になったり、ユーザーが「買う」行動を起こしたくなるコトバであるべきです。残念なコンセプトに多いのは、 なんとなく耳当たりの良いイメージ 的なコトバ。企画書上に、形式的なお題目として置かれたコンセプトにありがちですね。または、「北欧カフェ風」など形やトーンを示すだけで、価値の提案がないコトバがコンセプトと言われていることもあります。

しかし良いコンセプトには、ユーザーの体験価値や社会への新提案など行動につながる指針があります。正確な一語一句は忘れてしま いましたが、「すべてが遊び場になる幼稚園」という、ある幼稚園の開発コンセプトがあります。これは実に明快です。これからの子どもの心身の豊かさを考えた時に「遊ぶという好奇心こそを育てたい」というビジョンを持ち、それを実現するために「教室とか園庭とかいう枠を取っ払った、丸ごとどこでも遊べる幼稚園をつくろう!」というコンセプトを掲げたのだと思います。ユーザーである保護者に幼稚園の思想が伝わりやすく、「通わせてみたい」という行動を刺激しますし、さらに空間やコンテンツを開発するチームにとっては「何をつくればいいか・目指せばいいか」が分かりやすい。
「だったら、トイレもちょっと面白くつくっちゃう?」みたいに、つくり手もアイデアが出しやすくなる。この例のように、表現に溺れずに、平易で普通のコトバで、人々に明確な理解や行動を促すものが良いコンセプトだと思っています。


(PART2に続く)

※『宣伝会議』2020年5月号への寄稿文を了承を得た上でアレンジして転用しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?