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「置き場」第3号を読む

第2号に引き続き、第3号の感想です。またもや、いつの話をしているんだよという感じですが、なんとか追いついていきたい……。
過去のものと同様、気になった一首および気になった連作をそれぞれとりあげています。
作品は以下のリンクから。

四度目なので、そろそろ作者さんがかぶってくるころかも。もちろん歌の引用は作者名とは無関係に行っていますが、完全に個人の好みのため、偏りが生じてもご容赦いただけると幸いです。

※以下、敬称略

気になった一首

噴水に降る春時雨ひかりとも影ともつかず瞬いている

だまし絵/さとうはな

後半の詩情あふれる発見にはっとさせられた歌。噴水×春時雨の組み合わせのやわらかさ、その瞬きかたに着目したところが素敵だなあと思いました。イメージがぱっと浮かぶような。
ちなみにさとうはなさんは第10回詩歌トライアスロンの融合部門奨励賞を受賞されていました。おめでとうございます!詩客のサイトに公開されていましたが、そちらもとても好きな作品でした。言葉選び、息のとりかたに一定の静けさがあって惹かれます。


スイスには安楽死できる場所があり何故か湖畔と決めつけていた

洋酒に描かれた船/小俵鱚太

~~~!わかってしまうところがニクイというか、読者の思考や感情のデジャヴがここで起きる不思議な感じ。
スイスという国名から想像するあの広い草原、高い山、きれいな湖。安楽死できると聞くと、なにも情報がなくても「湖畔」と思ってしまう。
一歩下がって自身の視点を冷静にみている主体とともに、われわれも立ち止まるような気がする。
(鱚太さん、歌集出版おめでとうございます!!!)
※いうまでもないですが、今回の記事と歌集出版のタイミングが重なったのはたまたまです…!


戯れる青草を踏みしめてゆく水車に水は決して狂えず

古い日時計/花島照子

下句の真実の言い切りの強さに惹かれました。からからと回りつづける水車を、水はその方向に流れていくことしかできない。逆走することは絶対にない。当たり前なのだけど、それをあらためて提示されたとき、あらゆるものがそうではないかという想像にまで及ぶような。
上の句の「踏みしめてゆく」のどことなく真剣な感じ、主体の進んでいく方向にもつながっている気がする。


釜揚げのしらすの中の蛸みたくなれたらいいな ささやかにモンスター

チリメンモンスター/秋瀬うに

「ささやかにモンスター」がうまくてやられた感じがありました。そもそも前半の発想も面白くて、あのわいわいしているしらすたちの中の蛸、白のなかの紅、あれみたいになれたらいいなというやや異端児的な考え。ちょっぴりはみだしたい姿勢がなんとなくかわいいし、連作のタイトル「チリメンモンスター」の魅力をたっぷり引き出している歌と思いました。
半角にしてもかわいいですね。ハイッ! \チリメンモンスター/


駅前のロータリーに立つおじさんがある朝べつのおじさんになる

アメリカンドッグ/西鎮

交通整理員の方ってたしかにおじさん率が高い気がする……そして知らない間に違う人になっている……わかる……!
たぶん違う人だなとはわかっても、じっくり観察するわけでもないので、前のおじさんの特徴を聞かれたらそれはそれで思いつかない、みたいな。
うふっと笑ってしまう、でもたしかに共感を呼ぶ歌。場所設定の何気なさ、われわれの生活との近さがいいなあと思いました。「ある朝~になる」という物語的な口調もなんだかまじめくさっている感じがして面白かったです。

春雷がらいおんらいおん鳴る夜の喫茶で君はまつ毛を揺らす

春の潜水/オオバユウキ

「らいおんらいおん」のオノマトペが印象的でした。「しゅんらい」から続く「らい」の音の運びが良くて、どの季節の雷かというとやっぱり春、な気がする。
夜の喫茶店で向かい合っている「君」のまつ毛が揺れている感じ、怒りなのか悲しみなのか、それともなんともないのかわからない。でも「らいおん」という語が出てくるから、感情の揺れがあるのかなと想像しました。雷という大きなものと、まつ毛という細かなものの組み合わせも効いていると思いました。


気になった連作

秘話をぽい/あらいぐま

えええ……めちゃくちゃ面白くて好き……となった連作です。一首一首の個性が際立っていて、体感にうったえかける表現や、モノからの自在な発想があざやかに映りました。言葉遊びもあるきらい/きれいの二首の出し方も良いなあと。作者さまの世界観がぽぽーいと出ていて、でもどこか共感性もあって。いろんな人に読んでほしいです。ふくらませた30首連作とかも見てみたい……とっても……。

祝福はいつでもおそろしい、知らないひとの声で話してしまいそうで

秘話をぽい/あらいぐま


逆光のプロセスチーズ/吉田衣織奈

夜桜を見に行ったときのことを詠んだと思われる連作で、ひとつひとつの場面がふわっと浮かび上がって進んでいく様に惹かれました。タイトルだけを見ると、どういうことかな?と思ったのですが、読んでいくとわかって、絶妙なチョイスだなあと思いました。すべての歌が絶妙なバランス。
「寂しいと思いそうだと思って寂しい」や「透けて、透けないんだけど でもそう見えた」など、飾らない言葉、素直な感情の発露が刺さりました。

逆光のプロセスチーズが携帯に三枚増える 二枚目が良い

逆光のプロセスチーズ/吉田衣織奈


最後までお読みくださってありがとうございました。
置き場、毎回読むたびに皆さんすごいなあ……と圧倒されます。noteで取り上げなかったもののなかにも、好きな歌がたくさんありました。すべて引けなかったこと、ご容赦ください。

余談ですが、わたし自身、置き場ではある種の世界観を自分に課してちょっと遊んでいます。いつか雰囲気を変える(戻す?)かもしれないし、変えないかもしれない。そういうことも叶えさせてくれる場に深く感謝申し上げます。

前号分はこちら


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