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「置き場」第2号を読む

いつの話をしているのだ、というくらいに時間がずれていますが、ご容赦ください。連作サークル「置き場」第2号で気になった一首および連作について、書き連ねていきたいと思います。
これで追いついたと思ったら、もう第3号も出ているんでした。あたしゃ何をやっているんだい。→何もやっていない。

作品全体は、以下のリンク先に公開されています。運営の藤井さん、いつもありがとうございます。

※以下、敬称略

気になった一首

「黒柳徹子は変わらない」そうね、あれは幻想 飴をあげるわ

ふしぎ発見/まさけ

「飴をあげるわ」がいいな、と思いました。大阪のおばちゃんのアメちゃん押し付けではなく、ただそれと同じくらいの圧力を感じます。黒柳徹子さん、変わらない。わかる。


肋骨からしずかに生まれてきたという彼女の花色のくちびるよ

火の代償/水没

初句七音が心地よかったです。肋骨という、肌の下に収められたかたいものから、やわらかなくちびるへと意識がふわりと飛ぶのが魅力的でした。肋骨から生まれるってどういうことなのかしら。


考えを口にしているその口で愛をするなよ ちぎられたパン

ゴースト/君村類

「愛をする」に惹かれました。口はひとつしかないので、思ったことを言うのも、なにかを食べるのも、キスをするのも同じです。最後にパンが出てくるので食事の景とも思いましたが、「愛をする」はやっぱり口づけなのかなあ。


ついてゆきそうになるから新月の夜は砂糖を舐めて眠った

シーサイド/湯島はじめ

自分の衝動を抑えるために「砂糖を舐めて眠った」のがなんだかすごく神秘的なようで、でも実はとても現実的かもしれない、不思議な着地と思いました。甘いものを口にすることで落ち着かせる。月の見えない夜につられていなくなってしまいたい、という欲求のおそろしい感じも。


長いことインスタントでできているインスタントでポップなからだ

まどろみの国/ナカノソト

「インスタント」は当然「すぐに」という即座のニュアンスを含むのですが、「長いこと」と修飾されるとすごく面白い。インスタントラーメンやインスタントコーヒーを摂取しつづけている、ということかと読みました。「ポップなからだ」が自嘲的でもありながら明るさをはらんでいて印象的でした。


こんなところ誰も見ないと思うときもう眼の中の狭い広告

シューゲイザー/永井駿

してやられたなあ、とわかる景。小さなスペースとか、至るところに広告ははびこっていますよね。別に見たくはないのだけど、「なんか貼ってあるなあ」と気づいたら目を奪われてしまっていて、ああまた自分も広告を広告たらしめてしまった……!というか。共感できる生活の一片でした。


自転車初めなどと称して十字路にすこし角度をつけて入った

啓蟄ならば/塩本抄

新年明けて最初に漕ぐペダルのかろやかさが感じられました。「などと称して」から、なにやってんだろう自分、とすこし笑っている主体も見えつつ、三句目から下の句にかけてのリズムというか、音の傾斜がそのまま景につながるような軽快な流れに惹かれました。


弟を呼ぶとき半音下がる癖が二十年後も生きていること

先発隊/西鎮

気づきの歌でもあり、家族という繋がりの歌でもあるなあ、とあたたかい気持ちになりました。お兄さんである主体が弟を呼ぶときに、声のトーンがすこしだけ下がるのですね。きっと自分しか気づいていないことかもしれないけれど、どれだけ時間を空けて会っても、その呼び方で結ばれた相手とは兄弟なのであって、きっとこの先もずっとそうなんだろうな、と想像しました。


会ひたくて走りだしたら風景もなづきのねぢも消え失せてゆく

ばかばかばんび/岡本恵

「なづきのねぢ」がなくなってしまうのが、もう会いたさに全振りしている主体が見えてきて面白くもありこわくもあり。すさまじいスピードで走っている気がします。猛進しすぎて相手を過ぎてもそのまま駆けていっていそうな、それこそタイトルの「ばかばかばんび」の気質を彷彿とさせる歌。まっすぐすぎて好きです。


うつすらとあなたの部屋に寄り道をしてきたやうな風だと思ふ

Spring has come/有村桔梗

旧仮名のやわらかな調べが、歌意にぴったりと添うようでとても素敵だと思いました。そよかぜくらいの、あまり強くない風を想像しました。風に当たりながら、あなたの部屋を、そしてそこにいる/いたあなたの存在を思い出す、しずかな時間が浮かんできます。


どうしてもいのちはどこか湿っぽい凶暴なほどみどりの匂い

ゆめ、熱っぽい/牧角うら

上の句と下の句それぞれに魅力を感じ、かつお互いに引き立て合っているように思いました。命あるものは「どこか湿っぽい」の、わかる気がします。さあ生まれて暮らして死へ、とさらっと終わるわけではないというか。「みどりの匂い」は植物の色を指すだけでなく、なにか生命体のエネルギーそのものに由来するような印象を受けました。狂暴ないきものは吐息も荒らそうだし、さらに湿り気がありそうです。

気になった連作

ざぶざぶの街/なべとびすこ

どの歌も、不思議とどこかで共感してしまう魅力がありました。センチメンタルに寄りすぎないラインでの吐露というか。何気なく回っていく生活、その節々への着目がモノクロームな背景に浮かんでくる印象でした。暮らしを濡らしていく雨粒で連作を覆うようなタイトルもとても好きです。

トイレットペーパーはかばんに入らない遊んで生きてたいだけなのに

ざぶざぶの街/なべとびすこ


花狼/甲斐

ものさびしさを全体的に纏う、たしかな詩情に支えられる景、それぞれの歌に強く惹かれます。タイトルの「花狼」ってなんだろうと思いながら読み進めました。でもその手つきや仕草をとおして輪郭がぼんやりとわかってくる気がしました。つかみどころがないのに、手を招かれるような。

どの花も 散る もしくは降るとしてわたしのために怒ってくれる?

花狼/甲斐


やはらかい檻/高野蒔

おそらくは人形の目をとおして編まれた連作。どこか狂気的な、しかし妖しさとうつくしさが同時に迫る世界観がたまらなかった。旧仮名であることも、歌意に重量感を与えているような気がします。自分を捨てた人間に対する重い感情。映像化したらとてもこわいものができあがりそう。とても余韻の残る連作でした。

来やしない、誰あれも。生きてゐるものはわがままだから鋏をさがす

やはらかい檻/高野蒔

読んでくださった方、ありがとうございました。
第1号のときに開催したスペース配信をまたできたらなと思いつつ、最近なぜかいつも締切に追われているような……。
せめて気になる作品については書き残したい。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

前号分はこちら


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