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NHKの人に脳を破壊されたけど、文学の力で治った話
今年は太宰治の生誕百十年と聞いて、意外と最近の人だったからびっくりしつつ、その記念ということもあって町田康さんが太宰をテーマに全二回の文学講演をやった。
私は日本現代文学の作家のなかで町田康がもっとも好きで、過去にも町田さんの講演に何度か行っているがそれらはいつも単発で、今回のように全二回という、なんとなく学校のカリキュラムみたいなのは初めてだったので興奮してしまい、10.346円という若干お高
三半規管はイカンであります
拝啓
電線のすずめが焼き鳥に、道端のねこは干物に、犬の鼻など干ししいたけになってしまう日本の夏、皆様いかがお過ごしですか。
私は湿気と地熱に脳をやられ、その影響で三半規管をやられ、何を書いてもピンと来ず、かと言って書くことをやめるわけにもいかないので、下書きばかりが5万本、溜まり続ける日々を送っております。しかし狂った三半規管で書いたものが面白いわけもなく、5万本の下書きは全部が全部、うんこの
第1期 将棋もも名人戦 ー 最終話
※100円マークが出ていますが全文無料で読めます
[目次]第1話 第2話 第3話 第4話 第5話
わたくし、キジのごとく座っておりますから―――そう言った加藤一二三の手が、突然、羽生と森内の盤上に伸びた。丸くてふわふわした白パンみたいな手、その手はごくごく自然に羽生の銀を、つんつくし始めた。
つんつくつん、つくつくつん、つんつんつん! 歌うように羽生の銀を触り尽くした加藤は、大真面目な顔で「
第1期 将棋もも名人戦 ⑤
[目次] 第1話 第2話 第3話 第4話
あなたの脳内を、私に見せてくれ。
あなたの前には今、キジと犬と猿がいる。あなたが思い描くキジたちは、一体どんなだい? どんな感じで、生き生きかい? それとも静止画かい? 絵画かい? あるいはアニメかい? 背景は動物園かい? 野山かい? もしやもしや、自宅かい? あるいは将棋連盟の、特別対局室かい?
例えばこの第1期 将棋もも名人戦、我が脳内に鎮座
第1期 将棋もも名人戦 ④
[目次] 第1話 第2話 第3話
空気の流れる、音がする。空気の流れる音しか、聞こえない。
そこをときおり震わせるのが、着物のすれる音、対局者の息遣い、ガサゴソお菓子を開ける音、そして、パチンと、響く駒音。
パチンパチンと指し手は進む。盤上の対話は何万光年続くがごとく、見ている者を、惹きつける。いま羽生がふと、盤面から顔を上げた。そして無音で空気で着物の息遣いがガサゴソする静寂を、突然、破
第1期 将棋もも名人戦 ③
[目次]
第1期 将棋もも名人戦 ① → こちら
第1期 将棋もも名人戦 ② → こちら
羽生と森内の流れる川が、上りになって、しかも唐突に激流になった。その中にあっても羽生は器用に、何もなかったような顔をして、トビウオのごとく華麗にひょうひょうと進む。森内は鮭のようにビチビチしたが、流れに押し戻されたり水を飲んでむせたり水苔に絡まって革靴が脱げたりして、差は開くばかりだった。
けれど森内は、
第1期 将棋もも名人戦 ②
(前回分を未読の方は こちら から読んで頂けると幸いです)
桃に入った森内と、その身ひとつを水面に委ねた羽生は、今、横に並んでどこまでも続く川を流れ始めた。
それは今から33年前、ともに小学4年生のときであった。以来2人は30年以上も盤を挟み続け、公式戦で100戦以上戦い、まさに今この瞬間も、名人戦という最高峰の舞台でぶつかり合っている。
15歳で中学生プロ棋士となった羽生は、当時から何も
第1期 将棋もも名人戦
昨今の将棋ブームにおいて、何となく面白い世界だなと思い始めた人々に、羽生さんはどんな人?と聞かれたとする。
そして羽生がどんな人かと答えるならば、私は森内についても答えたく、更には佐藤康光についても答えたく、加藤一二三についても答えたい。他にもいっぱい、答えたい。とにかくたくさん、答えたいのだ。
けれど棋風が云々という説明は、私には向かない。
だから私は『桃太郎』に置き換えて、話すことにした。