[interview]#5 宇南山加子さん/SyuRo代表・SAMNICON(御代田町)
「所有しない時代」になったとはいえ、まだまだモノがあふれる世の中。そんななかで宇南山加子さんのデザインは、モノ自体よりも「間の空気」を重視していると言います。森と自然に包まれた暮らしを選んで長野県北佐久郡御代田町に移住し、2023年に自宅横にギャラリー「SAMNICON」を始めた宇南山さん。お話に登場する円や縁、循環やつながりといったキーワードは、これからの暮らしのデザインに向けた、大きなヒントになります。
編集・取材・構成=岡澤浩太郎/八燿堂
写真=栗田脩、SyuRo(*)
※インタビューのダイジェスト+αはポッドキャストで公開しています
「お店」をつくる気はなかった
岡澤浩太郎(以下、K) 宇南山さんはプロダクトのデザインや店舗のプロデュース、東京の台東区にショップ兼アトリエ「SyuRo Tokyo」を構えるなど、いろいろなお仕事をされていますよね。
そんななかで2023年5月に、御代田町にギャラリー「SAMNICON」をオープンされました。HPにはSAMNICONを「これから先の時代を見据える」「次世代に継いでいける」「未来に向けた意味のある暮らし」を提案する場所、と書かれていますね。
宇南山加子さん(以下、宇南山さん) 先にSyuRo Tokyoの話をすると……SyuRo Tokyoを青山や六本木ではなく下町につくった理由は、下町で暮らして、そこで見えることをお店でやりたかったからです。職人さんが来て打ち合わせをしたり、近所の人たちが来てしゃべったり、そういうところから商品が生まれたり。そんなコミュニケーションツールのような一環で、つくっているところを含めて全部つくる、いまで言うオープンファクトリーとして始めたんです。
その経験があったので、SAMNICONでは、いわゆる「お店」をつくる気はまったくなかったんです。もっと、暮らしをしながら、暮らしに根付いた場所をつくりたい。いま住んでいるのは自然豊かなところだから、ギャラリーは暮らしの横にあって、人に提案しやすい、見てもらいやすい場所にしたかったので、あえて自宅の隣につくって、つながりのある感じにしたかったんです。
K HPには、SAMNICONでは「敷地内で、⼩さな地球の循環ができたら」とも書かれていますが、プロダクトも循環の輪に含まれているのが、宇南山さんのデザインの特徴ですよね。
宇南山さん 私のものづくりは、「人にきっかけを与えるものでありたい」と思っているんですね。
環境問題、職人さんの後継者問題、エネルギーの問題、日本の文化の良さを伝えること……そういう問題意識を反映しながら、いろいろなきっかけを与えるもの。それを通して本当に人々の暮らしが良くなるにはどうしたらいいかを考えたら、やっぱり、隣にいる人を喜ばせることがすごく重要だと思うんです。
私の場合、それは息子だったけど、息子とのいろいろなことに対して、自分のエネルギーをもっと有効に使えたはずなのに、それができなかった。だからこれからは、20~30年後にもっと還元できるような暮らしの仕方をしようと思ったんです。
K 20~30年後、ですか。
宇南山さん はい。ひとつの商品にしても、20~30年後に自分の注いだエネルギーがムダになっていないと考えられるものをつくりたい。だとすると、すぐゴミになって捨てられるようなものではないだろうし、人に喜ばれるものにしたいし、人に何かを考えるきっかけを与える商品でありたい。
それが地球の循環になる、というのは漠然としていますけど……でも、自分のつくった思いとか、使ってくれる人の思いって、いろいろなことにつながっていくじゃないですか。どんどん輪が広がって循環していくので。そんなポジティブな思いの循環ができたらいいなと思っています。
円と循環のデザイン
K 「循環」というキーワードを大事にしていると感じるんですが、何かきっかけがあったんですか?
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