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8/32(Sun)


AM 8:30

いつだって政府の発表は突然だ。
去年の秋頃、来年は8月32日になることが世界的に発表された。
消費税の増税だって、なんかの法案だって、発表はいつも前触れなくやってくる。ましてや日程なんて。
原因は気候の変化とか季節の変化でうるう年的な日程的なズレでなんだかよくわからないけど、とにかく今年の夏は32日あるみたいだ。
正直みんな「へー」くらいにしか思ってないし、だからなんだと言った気持ちでこの日までを過ごしてきたのだろう。
かくゆう私も8月31日、5時くらいに「あ、そういえば明日も8月だったんだ、速度制限解除されないじゃん」と急に思い出したくらいまでには8月32日の存在はなかった。
小学生の頃はきっとその日に宿題を慌てて終わらせるのだろうか、ただまあ高校2年となれば9月のどの日までに終わらせばいいのか経験としてわかっているので、今焦ってやらなくてもなぁ。学校通っている時よりは遅く、でもいつもより早い朝を迎えた私はそう思いながら、窓越しに写る朝日に目を細めながら、牛乳でひたひたにされたシリアルを頬張った。


AM 10:30

今日は何も予定がなかったので家族で映画でも見ようと、少し遠くにある映画館付きのショッピングモールに向かうためにお母さんが運転する車に乗り込んだ。家から少し離れた場所にある、何と無く見たことはあるけど絶対行き方はわからない道路を走っているときに「日曜日だから映画館混んでるだろうね」「すぐ見れるといいね」「なんの映画やってるか調べてよ」なんて話しかけられたので映画館のホームページにある空席状況を調べるためにスマートフォンを取り出した。背景画面に映る初期設定の無機質な画面の中で映る32日の存在。さすが携帯電話会社の対応は早い。32という絶対的に日にちの中では見ることができない数字を並べてしまうんだ。8月32日という見たことない画面に胸をくすぐられながらいつも通りに暗証番号を入れてホーム画面を開き、なかなか開かないホームページ画面にイライラしつつも頭の中でどんな映画をみようかと想像した。


PM 3:45

映画は流行っているのでという理由で今話題の映画を見た。とは言っても公開終了まじかなので多少の席の余裕があり少し前の方だがちょうどいい時間に見れた。
映画も終わり遅めの昼食を食べようとフードコート内をウロウロして一番空いてそうなお好み焼き屋の列に並んだ。店の隣にある登りにある期間限定シャンペーンの「〜8月32日」の文字。そういえば、近所のお祭りでお好み焼きを食べたから2週間ぶりかな。香ばしいお好み焼きのソースの匂いに食欲をそそりながら今年の夏を思い出した。後何人かと列に並ぶ人数を数えて待っている時間が続く中自分の順番が来て、普通のお好み焼きと期間限定でクリームソーダが20円引きだったのでそれも頼んだけど、よく考えたらその2つの組み合わせって合わない。


PM 6:10

ちょっと秋服いると思うからという理由でみても何にも感情が湧かない商品に、適当にいいんじゃないと相槌をうって買ってもらった服を持って家に帰るために車に乗り込んだ。車の運転席から流れる『ムカシナツカシイ』音楽を聴きながら外の山とか木とかが流れてゆく様を眺めていた。来年は受験だな。きっとゆっくり過ごせるのは今日で最後だろうな。来年はどんな生活が待っているのだろう。来年はどんな自分になっているのだろう。まあ、そんなことを考えても仕方ないな。今日も夏休みもう少しで終わってしまう。短かった、いつものことだけど。
映画と試着の疲れか、それとも終わる夏に少し名残惜しいと感じたか、判らないけど、もう少し運転する車の中に乗りたいと思った。


PM 9:50

ニュースのキャスターが「さて、今日はいかがお過ごしでしたでしょうか」というのをぼーっと眺めていた。振り返ってみるといつもと変わらないな。でもいつもよりは意外と充実してたんじゃないか。今日は映画見たし。お風呂の順番を待ちながら明日友達に話す思い出話を頭の中で推敲しながら、ソーダ味のアイスキャンデーを齧った。


8月32日、去年は無かった夏の最後の日。



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